環境先進国ドイツのエネルギー政策を読む――2020年に向けた10のビジョンとは(後編)松田雅央の時事日想(2/2 ページ)

» 2009年05月19日 12時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]
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ビジョン8:暖房用化石燃料の消費量削減とコジェネレーション

 日本に比べ寒冷なドイツでは全エネルギー消費のおよそ半分を暖房が占めている。古い家屋の壁や窓を改修し建物の断熱効率を高めたり、木材ペレット・太陽エネルギーなど再生可能エネルギーを利用することも可能で、この分野の改善余地は非常に大きい。

 現在、暖房エネルギーの主流は天然ガスと石油であり、特にコジェネレーション(熱電併給)の普及が効果的と考えられている。発電効率の高い火力発電所であっても発電効率はおよそ40%であり、コジェネレーションであれば残り60%の熱エネルギーも有効利用できる。

 もっと小型のコジェネレーション(例えば各建物に備え付けられる小型ボイラー)も可能であり、その燃料を再生可能エネルギー(木材ペレット、木材チップ、バイオ燃料など)にできればさらに理想的だ。コジェネレーションによりエネルギー利用効率を90%(電力40%+熱50%)まで高めることができる。

  • 再生可能エネルギーの利用促進と建物の断熱改修により、暖房・給湯用の化石燃料消費量を25%削減(時事日想1月27日の記事参照)
  • コジェネレーションの技術開発、利用促進。2020年には電力消費量の25%をコジェネレーションで
  • 再生可能エネルギーを暖房・給湯用エネルギーの主流に。バイオマスや太陽エネルギーの割合を現在の7%から14%へ
  • 地域熱供給を1000〜1500世帯に普及(時事日想4月7日の記事参照)
木材チップを燃料とするコジェネレーションボイラー

ビジョン9:交通部門の構造転換

 ドイツ国内で発生する温室効果ガスのおよそ20%は交通部門に由来する。

 今でこそ消費者は自動車を購入する際に二酸化炭素排出量やエコ度を気にするが、こうした傾向はかなり新しいものだ。小型車や中型車が人気を集めるようになり、馬力ではなく二酸化炭素排出量の少なさが重要な購入基準になってきたのはここ2、3年のこと。2007年のフランクフルト・モーターショーでは各メーカーがエコカーの展示に力を入れていたが、世界的なモーターショーでエコが強く意識されるようになったのはこの頃だと思う。

フランクフルト・モーターショー(2007年)に出展された中型車。二酸化炭素排出量「139グラム/キロ」

 EU(欧州連合)は2012年の新車の環境性能目標を「二酸化炭素排出量130グラム/キロ」程度としている。これを2020年までに95グラム/キロへ引き上げる予定であり、自動車メーカーには更なる技術革新が求められる。

  • エコカーをはじめとする省エネ技術の開発(エコカーの普及と合わせて、今後は公共交通や運輸部門における水運・鉄道利用もいっそう重要な役割を果たすようになる)
  • 水運と鉄道利用を促進

 国内の交通量は今後も増加するが、

  • 温室効果ガス排出量は2005年に比較して20%以上削減
  • バイオ燃料の利用と電気自動車の利用
ドイツ中部の都市ブラウンシュバイクの路面電車(左)、ライン川をさかのぼる河川用ケミカルタンカー(右)

ビジョン10:気候変動抑制と国際協調

 地球温暖化についての科学的な研究情報の収集・整理を行う政府間機構「IPCC」の報告によると、地球の平均気温は直近の100年間に0.74度上昇している。これまで経験したことのない未曾有の上昇スピードであり、その主な原因は人為的なもの、つまり温室効果ガスとされる。気候問題は国を超え、地球全体で取り組まなければならない課題であり、国際協力が欠かせない。先ごろ開催された第15回気候変動枠組条約締約国会議(COP15)において、2030年に向けた温室効果ガス排出削減の具体的目標が定められた。

  • 2020年までにEU(欧州連合)は全体で1990年比30%、ドイツは40%削減

 ドイツの2030年の目標はさらに厳しく1990年比で50%削減。環境政策で世界のトップを走り続ける野心的な目標、そしてドイツの決意の表れでもある。

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