松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)」
地理的に見ると、ドイツはサハリンとほぼ同じ高緯度に位置する。冬の日照時間は短く、しかも曇天が多いから、少なくとも住宅は暖かで心地良くなければ冬の生活は辛い。暖房は温水を循環させるセントラルヒーティングが主流で、地下室に設置するボイラーの燃料は灯油、ガスが一般的。最近は木質燃料(木質ペレットなど)も増えてきた。
新興国需要の増加などで今後、長い目で見ればエネルギー価格の上昇は避けられず、家計にとって暖房費の負担はさらに大きくなるはずだ。そこで、住宅の暖房エネルギーを節約するために、この1月からEU(ヨーロッパ連合)指令とドイツ国内法に基づくエネルギーパス(エネルギー証明)制度の運用が本格的に始まった。
初めに住宅のエネルギー性能(暖房に必要なエネルギーの量と省エネ能力)について考えてみたい。
ごく簡単に書くと住宅のエネルギー性能は、年間の暖房エネルギー消費量を集計し、住居面積で割れば算出できる。例えば省エネルギー住宅ならば住居面積1平方メートル当たり年間60キロワット時程度しか暖房エネルギーを要しないが、エネルギー性能の悪い住宅ならば400キロワット時を超えてもおかしくない。ちなみにドイツにおける住宅の平均は250〜300キロワット時である。
ただ、こうやって計算した結果は天候(暖冬か厳冬か)や住人の生活習慣(暖房を多く使うか少ないか)の影響を受けてしまう。また、この計算はエネルギー消費の「ドンブリ勘定」でしかないので、建物のどこからどう熱が逃げているのかは皆目見当がつかない。
その点、赤外線写真を使えば熱のロスが一目瞭然となり、壁が弱点なのか、窓の性能が悪いのかといった「建物の省エネ診断」を下すことが可能となる。
1950年代の建物の赤外線写真を見ると、ほぼ全面に熱のロスがみられる。屋根の下(軒下)や各階の天井付近は赤やオレンジ色に染まっており、部屋の上部に集まった暖かい空気の熱が逃げていることがよく分かる。それに対して断熱改修を施した建物の赤外線写真(下図、下段の2枚)はほぼ全面が低温の青色で熱のロスは極めて少ない。
断熱改修の種類には外断熱と内断熱があり、ドイツでは外断熱がポピュラーだ。外断熱工事は驚くほど簡単で、数センチから10数センチの発泡スチロール、グラスウール※、自然素材(麻など)の断熱材を外壁に張り付け、その上に薄くセメントを塗って仕上げるだけ。地震のない国だからこそ可能な工法で、日本なら地震によるひび割れや剥がれが問題になりそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング