あなたの住宅、暖房は効きやすいですか?――ドイツのエネルギーパス制度松田雅央の時事日想(2/2 ページ)

» 2009年01月27日 07時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]
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エネルギーパス

 このように赤外線写真は住宅のエネルギー性能を調べるのに重宝するが、定量的な計測が難しいためエネルギーパスでは使われない。エネルギーパスの内容は「天候や生活習慣に左右されない、その建物固有のエネルギー性能」なので、外壁の材質、断熱材の厚さ、窓・窓枠の性能、ボイラーの性能、建物の構造といった変動のないデータから算出される。

 エネルギーパスの見本によると、この建物が必要とする暖房エネルギーは1平方メートル当たり年間228.4キロワット時で、その内訳は天然ガス167.8キロワット時、木質ペレット48.3キロワット時、電力12.3キロワット時となっている。

 消費量の目盛りは分かりやすいよう緑色〜赤色に色分けされ、緑色になるほどエネルギー消費が少ない。この建物は暖房に天然ガスを使い、おそらく居間に木質ペレットのストーブを置いているのだろう。

 なお、エネルギー10キロワット時を作るのに灯油1リットル(天然ガスならば1立方メートル)が必要だから、灯油に換算すればこの建物は1平方メートル当たり年間約22.8リットルを消費することになる。

住宅のエネルギーパス(エネルギー証明)見本(出典:dena/BMVBS)

省エネの診断書

 エネルギーパス制度の最終目的は、市民の省エネ意識を高めて社会全体のエネルギー消費を抑制し、CO2排出削減を図ることだ。エネルギーパスにはエネルギー消費量だけでなく建物の問題点や、CO2の排出量も付記されている。この先、エネルギーパスが築年数やロケーション、間取り、価格などと並ぶ住宅の価値基準として認められるようになれば、省エネを後押しする強い動機となるはずだ。

 望まれるのは国内全建物のエネルギーパス取得だが、数千万棟を一気に調査するのは非現実的であり、住宅については「これから建てられる住宅」と「大規模な改修を行う住宅」、そして「売買・賃貸する住宅」に取得が義務付けられているだけだ。販売・賃貸する住宅は、購入・賃貸希望者の求めがあればエネルギーパスを提示しなければならない(ここでは触れないが非住宅もエネルギーパス制度の対象となる)。

 エネルギーパスの調査と発行は公的な資格を持つ業者が有料で行い、費用は建物の規模と調査の質により1戸当たり数千円から数万円程度かかる。エネルギーパスは「建物の暖房エネルギー消費量を示す公的な証明書」であり、「さらなる省エネ対策に役立つ診断書」という性格も持つ。

浮き彫りになる課題

 以上、エネルギーパス制度を概観してきたが早くも課題が指摘されている。

 まずエネルギーパスの認知度が低い。特に賃貸住宅に住む人の関心は低く、これをテコ入れしないと制度の普及に弾みがつかない。賃貸住宅居住者もエネルギーパスをよく知るべきなのだが、都市部は賃貸住宅不足のため、探す側にとっては「とにかく借りられる住宅を見つけること」が先決となる。住宅のエネルギー性能が高いに越したことはないが、それにこだわっている余裕はないのだ。

 一方、自分で家を建てる場合は話が別。設計段階でエネルギー性能のことをよく考えないと年間の暖房費に数万円以上の差がついてしまうから、エネルギーパスに限らず省エネへの関心はおのずと高くなる。

 また、エネルギーパスの仕組みをもっと簡素化するべきとの意見もある。それについては(語弊はあるが)現在のような中途半端な調査ではなく「初めの調査は簡素化し、問題があれば徹底的な調査を行う」といったメリハリをつけるのも1つのアイデアだ。

 しかし、エネルギーパス制度はさまざまな課題を抱えているものの、その趣旨は理にかなっており効果も期待できる。今後の整備が待たれるところだ。

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