給与明細を他人にぶっちゃけたら……その先どうなる?(2/3 ページ)

» 2009年05月22日 07時00分 公開
[中村修治,INSIGHT NOW!]
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「給与明細を他人にぶっちゃける」ニュースその(2)

 「下流過ぎて涙出てくる」「給料日だし給与明細さらそうぜ!」――2009年2月24日、そんなスレッドが「2ちゃんねる」に立った。他人の給与がいくらなのか知りたい、というのはいつの時代でも同じだ。しかも世界的不況の不安もあってなのか、結構話題になっているようで「リアルに低すぎて、げんなりした」といった感想が書き込まれている。

 インターネットを使って匿名で給与明細を公開する行為は、いずれ現れて話題になると思っていた。ネット上に給与明細を公開することが、流行している国があることをご存じだろうか。その国ではこの「給与明細を他人にぶっちゃける」行為を「晒工資」と呼んで、流行語にもなっている。文字通り、工資=給料をさらす。そう、中国である。

 日経ビジネスオンラインによると、1978年に始まった「開放・改革」政策から1992年の「社会主義市場経済」への動きを通じて、中国では所得の格差が徐々に大きくなっていった。しかし、従来の所得格差はそれほど大きなものではなく、給与明細を見なくとも、職業や職位、労働年数を考慮すれば、給与水準を推測することができた。

 ところが、その後の中国経済の急速な発展は「社会主義市場経済」という枠を完全に通り越して、コテコテの「資本主義経済」に傾斜して弱肉強食の色合いを強めていった。時代の趨勢(すうせい)に適応することができた勝ち組と適応できなかった負け組が鮮明になった。この結果、両者の格差は急激に拡大し、“都市部と農村部”や“沿海部と内陸部”の所得格差にとどまらず、業種間でも給与格差が広がりつつある。

 中国も経済成長とともに格差社会が生まれた。そのため「自分が得ている給与は社会全体でどのレベルにあるのか知りたい」という強い欲求が被支配層に生まれ、それを解決したのがインターネットだったというわけだ。日本でも、中国と同じように「給与明細を他人にぶっちゃける」行為は、ネット上で常習化していくのだろうか?

 しかし、それは資本主義社会の生んだ「格差社会」の徒花(あだばな)のようなものに感じてならない。その現象は社会の進化ではなく、後退だと思う。「給与明細を他人にぶっちゃける」行為のやりとりは、結局、民間企業の給料を底上げすることにはつながらない。自由に、自分の給料を上げていくという自由競争の場を自らが奪うことに直結することを当の本人たちは気付いていない。

 中国で「晒工資」が流行する前から、「給与明細を他人にぶっちゃける」のは、とても良いことですと推奨しているところがある。そこのWebサイト※には、こんなことが明記してある。

 「給与明細を見せ合おう」

 職場の中で同年同期の同僚、同じ仕事をしている人、勤続年数の異なる人と、給与明細を見せ合いましょう。給与明細は他人に見せるものではない、と思わされているのは、会社が好きなように給料を決めるためでしかありません。

 数名の給与明細をつき合わせたら、(1)勤続年数による賃金の違いが分かりますか? (2)給料の違いの合理的な内容が分かりますか? (3)給料明細の項目の違いはありませんか? お互いに疑問に思うことを書き出してみましょう。

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