どん底からスタートする思いとは――トヨタの豊田章男新社長就任後初会見を詳細レポート(2/5 ページ)

» 2009年06月26日 08時30分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

広告やマーケティング活動を抜本的に見直す

 ここで、各地域での「今後の取り組みの方向性」について、少しお話しします。

 まず日本国内は、一丸副社長が担当します。新型プリウスは、お陰様で非常に大きな反響を呼び、5月18日の発売以降、受注台数は20万台とかつてない水準に達しています。新型プリウスはハイブリッド技術を一段と進化させており、お客さまからその技術をご評価いただけた結果であると思います。

新型プリウス

 今回の販売の好調は、政府の経済刺激策であるエコカー減税やエコカー買い替え支援策の効果も大きいものと考えています。エコカーが普及、増加していくことにより、CO2の低減につながるのはもちろんのこと、日本の自動車産業全体が、環境をより重視した構造へと変化し、それがコアとなって経済が再生していく流れが見えてきています。こうした施策を迅速にまとめていただいた政府に対して御礼を申し上げるとともに、この流れが継続されるようお願い申し上げたいと思います。

 日本の市場に関しては、これからは除軽(軽自動車を除く)市場だけではなく含軽(軽自動車を含む)市場、新車市場だけではなく新車・中古車市場をベースにビジネスを考えていくべきと思っています。この新・中・含軽で見ると年間1200万台の市場がありますが、除軽の新車市場だけを見ると足元では300万台弱となっています。

 お客さまにとって魅力ある商品を提供できれば、新車販売を伸ばすチャンスはまだまだあると思います。さらに、国内7500万台の保有台数を考えれば、いろいろなビジネスチャンスがあります。

 こうした新たな視点でビジネスを展開するために、私どもの広告やマーケティング活動も抜本的に見直す必要があります。そのため、マーケティングに特化した新会社を設立することを検討しています。新会社では専門性と独立性により機動力を高めるとともに、お客さまを向いた活動に重点を置き、改革を進めていきます。将来的には商品開発部門にもその意見を届け、よりよい商品作りにもつなげていきたいと考えています。

地域ごとに異なる戦略

 次に海外市場について、お話しします。

 まず北米ですが、新美副社長が担当します。北米は現在、市場が急速に縮小していますが、2億5千万台もの保有、あるいは今後も人口が増加してくることを考えれば、市場はいずれ回復してくると確信しています。ただその時は、これまでのような大型車中心の市場構造とは中身が変わってくると思います。今後市場の変化をしっかりとらえ、慎重に検討していかなければなりません。

 とは言え、これまで海外戦略の柱として、トヨタの成長を支えてきた北米が極めて重要な市場であることには何ら変わりはありません。その中で自立化を一層推進し、これまで以上に現地に根ざし、北米社会の一員として北米のお客さまに喜んでいただけるクルマ作りを行っていきます。

 次に欧州については、佐々木副社長が担当します。欧州は各国のマーケットに根ざした歴史も実力もある有力メーカーが、多数ひしめき合っています。私はこれからの欧州戦略は、ただ単に力ずくで台数やシェアを伸ばせばいいということではないと思います。存在感あるメーカーとして、トヨタの特色を生かしたビジネスを展開していくことが大切です。

 トヨタの特色と言えば、やはりハイブリッド技術だと思います。環境規制が強まる中でハイブリッドに徐々に軸足を移していくことが、今後のトヨタの立ち位置になっていくものと思います。

 また欧州では、クルマが文化として人々の日常生活に溶け込んでいます。その意味でも、トヨタがクルマ文化を学ぶ場所として、引き続き重要な地域でもあります。私はもっとクルマと人の距離感を縮めるために、欧州のようなクルマ文化を世界の各地域に広げたいと思っています。

 次に新興国と称される中国やアジア、南米などの国や地域については、布野副社長が担当します。

 これらの国や地域は、今後大きなマーケットに成長するポテンシャルを持っています。特に中国は、もはや米国と並び立つ巨大なマーケットになろうとしています。ここでは正攻法でお客さまに向き合っていかなければなりません。つまり現地のお客さまの視点に立って、お客さまニーズに対応した競争力ある商品をタイムリーに投入すること。そして、マーケットの拡大とともに、台数も収益も拡大する。こうしたビジネスモデルを確立していきたいと思います。

 そのためには今後、ほかの地域の既存商品をあてがうだけではなく、その地域のモータリゼーションの波に乗れる良品廉価なクルマ作りが、必要になってくると思います。また、これらの地域においては、IMV※と並ぶビジネスの柱が必要だと思います。

※IMV……Innovative International Multi-purpose Vehicle。新興国市場をターゲットにしたトヨタ自動車の世界戦略車プロジェクト。

 以上が各地域についての取り組みの考え方です。

お客さまをとりこにするクルマを開発する

 次に商品と技術開発については、内山田副社長が担当します。

 先ほども申し上げた通り、低燃費などの環境技術は、これからの低炭素社会の実現のために一層強化していかなければならないと考えています。ハイブリッドもハイブリッド以外のクルマも、環境性能の向上に努めていきます。

 しかし、「それだけでは十分ではない」と私は考えています。「運転すること自体が、人々の喜びや感動に結びつく技術」「お客さまのニーズを先取りした技術」が求められていると思います。私としては、お客さまをとりこにするクルマを開発できるよう、内山田副社長とともに努力していきたいと考えています。

 ここまで経営の基本的な考え方や地域別の取り組みの考え方、技術開発の考え方などをお話ししてきました。

 1月の記者会見の時に私は「現場に一番近い社長でありたい」と申し上げました。それは「現場にこそ企業経営の本質がある」と考えているからです。その現場を支えているのは従業員です。私は「従業員の1人1人の成長が会社の競争力につながっている」と考えています。トヨタには会社設立当初より「品質は工程で造り込む」という言葉があります。クルマの品質を、各工程で造り込んでいるのも1人1人の従業員です。「従業員と一緒に考え、一緒に成長することが企業経営の基本である」というのが私の信念です。

 私はトヨタに入社して25年に過ぎません。その間、本当にたくさんの方にいろいろな形でご指導をいただいたり、応援もいただきました。

 トヨタが今、こうして事業活動を継続できているのも、1人1人のお客さま、販売店、仕入れ先、トヨタグループの皆様、及び諸先輩のおかげです。この場をお借りし、株主を始めとする世界中のすべてのステークホルダーの皆様に心より御礼申し上げます。

 こうした方々への感謝の気持ちを忘れず、決してあせらず、力まず、みんなで心を合わせて頑張ってまいりたいと思います。それでは続いて各副社長からひと言お話させていただきます。

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