どん底からスタートする思いとは――トヨタの豊田章男新社長就任後初会見を詳細レポート(4/5 ページ)

» 2009年06月26日 08時30分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

3期連続赤字を回避するため「できる限りの手を打っていきたい」

質問に答える豊田社長

――14年ぶりの創業家からのトップという形ですが、このことをどのように受け止めていらっしゃいますか? 非常に厳しい経営環境の中で士気を高めるという言葉も出ていますが、それほど単純なものなのでしょうか?

豊田 今の時代、誰がトップをやっても大変だと思います。それが正直なところです。そんな中、就任の時にも申し上げましたが、豊田の姓に生まれたことについて選択権は自分自身になかったわけです。しかし、これからも豊田章男として自分が信じることを大胆にやっていこうと思います。

 ただ、この豊田の姓に生まれたおかげで本当に多くの方に今までお会いすることもできましたし、多くの諸先輩にご指導いただいたことも事実でありますし、このことは私の人間形成、そして私の人生にとって大きなものだったということで大変感謝しています。今度こういう立場になったということで、今度は私が社業を通じて社会に恩返しできるよう、誠心誠意努力していくつもりです。

――今回の人事の狙いについて改めてお聞かせください。

豊田 今回の人事ですが、取締役とその下の常務役員が全部で79人います。その1人1人が大変素晴らしい方で、その1人1人の良さ、強みを今のトヨタに力を貸してもらうような観点から、トヨタ社内に限らず幅広く人選した結果、こういう布陣になったということです。得意の分野でかつ現地現物を実践できる経営陣という狙いです。今後、この経営陣全員がこれまでのそれぞれの現場でつちかったご自身の思いや経験を生かして、それぞれの現場で現地現物を推進していってほしいと思っています。

――黒字化のめどをいつごろと考えていますか?

豊田 原価改善、諸経費削減による今期の8000億円の収益改善計画はスタートラインだと思っています。ここから、さらに少しでも上積みを図っていきたいと思っています。日本や欧米各国政府主導でのスクラップ・インセンティブ(新車購入補助)などの需要刺激策の影響が多少出ています。当社もこうした後押しを最大限に活用して、販売台数増を図ることで収益の改善を目指していきたいと思っています。そういう収益改善を強力かつ着実に推進することで、「1期でも早く黒字化を果たしていきたい」というのが本音です。いずれにしても3期連続の赤字を回避するために「できる限りの手を打っていきたい」と思っています。

 外部環境の悪化があったとはいえ、連結営業利益が大幅な赤字となってしまったことに対しては経営陣の1人としてじくちたる思いです。今回、嵐の中のスタートを切ることになったわけですが、その前に私を含めた一昨日の株主総会前の代表取締役9人に付いては、すでに公表している賞与なしに加えて、月額報酬の一部自主返納ということで業績悪化に対するけじめを付けることにしました。私自身は7月から向こう1年間、月額報酬の3割を自主返納していきます。私以外の役員は自主的に返納することで、誰がどの程度ということはご容赦いただきたいですが、新体制で前を見て行こうと思っています。

2010年3月期見通し(出典:トヨタ自動車)

――先ほど商品の話の中で「捨てるものは捨てる」ということをおっしゃっていたと思うのですが、具体的なイメージがあれば教えてください。

豊田 「捨てる」わけではなく、「退く」部分であります。「攻める」部分と「退く」部分ということで、ご理解いただきたいと思います。捨てるようなビジネスは何一つやっていませんし、退かざるを得ないというようなところはあると思います。「すべてのお客さま(の需要)に応えるためにすべてやりたい」というのが本音で、「それをぜひやっていきたい」と思っています。しかし、現在の私どもの体力、そして実力からいくと、ちょっと(生産を)待たざるを得ないというものを「退く」分野としていると考えてほしいと思います。

――豊田社長は今後もレースを続けられるのでしょうか?

豊田 ここにおられる副社長たちは「やめとけ」と言っています。私はレースには出場していますが、レースはしていません。「なぜ私がレースに出場しているか」ということですが、ニュルブルクリンクというサーキットであることが1つ、24時間レースであるということが2つ、クルマの開発のためにやっているというのが3つです。

ニュルブルクリンク24時間レース公式Webサイト

 なぜニュルブルクリンクなのか。私は日本のサーキットのテストコースを全部走ったわけではありませんが、ほとんどは走破しています。その中で、そこの道になくてニュルブルクリンクにあるものがあります。クルマが安全に走ると、日本の道だとクルマが(道路に)吸い付く感じになりますが、ニュルブルクリンクで走行すると、クルマが突き上げられるようなタフな道があります。「そういう中でもトヨタのクルマは安心して走っていただきたい」というのが私の思いです。今回の24時間レースでは、ほとんどの方がプロでした。プロの方は(24時間レースを)こなせても、一般のドライバーのお客さまはアマチュアです。アマチュアに一番近い立場の人間として私がいいかと(思ってレースに出場しています)。

 3年間テストコースでいろんなことをトライしていても、レースになるといろんな課題が出てきます。(トラブルが出た時に)24時間という限られた時間の中で「何とかレースに復帰したい」ということで、人間はいろんな知恵を出して、直そうというパワーが出てくるわけです。そんなものが「車作りの人材育成に役立っているのではないか」と私は思います。

 そんなわけで私はレースに出場していますが、あくまでも人材育成のためです。自分の仕事、(自社の)商品との対話に命を賭けているということです。今後、命の賭け方に関しては副社長たちのアドバイスも謙虚に聞きながら、どういう形で今後進めるかを考えていくので、今の段階で「出る」「出ない」はお答えできません。

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