現場に一番近い社長でありたい――豊田章男氏のトヨタ社長内定会見を(ほぼ)完全収録(4/4 ページ)

» 2009年01月21日 09時20分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
前のページへ 1|2|3|4       

雇用についての考え方は

――昨年の年末会見で「年間世界販売台数が700万台でもトヨタ単体で利益が出る体制を作りたい」との渡辺社長の発言がありましたが、これに向けて豊田副社長はどのような具体策をお考えでしょうか?

豊田 700万台でも利益が出るということですが、これは現在新車市場が大変落ち込んでおります(ことからの発言です)。

 米国(の年間販売台数)も1000万台ぐらいになっている。ところが、1000万台の意味を考えますと、米国には保有(自動車)が2億5000万台あります。2億5000万台ある中の1000万台の市場というのは、現在持っておられるお客さまが「25年に1回クルマを買い換える」という計算になります。それはあまりにも異常値だという風に思っております。

 ですからそういう意味でも、「この市場はいつかは回復してくるだろう」(と思います)。残念ながら底を打ったという実感を持っておりませんので、大変そこのところは計画が作りにくいというところでございます。

 私どもは日本で70年、米国でも50年、そのほか中近東でも50年と非常に長い間においてお客さまにご愛顧いただいて商売をさせていただいております。その中において、本当に多数のお客さまに(トヨタ車を)保有していただいております。そういう方々との絆を作っていくこと、新車市場が落ち込んだ中では一番のお客さまの信頼を勝ち取っていくこと(が大事)だという風に思っております。

 ですから今はお客様との絆作り、カスタマーサービスを中心に頑張ってまいります。

――国内の雇用についてのお考えを教えてください。

豊田 トヨタという会社は定年を迎えた時に、「本当に自分はいい人生であった」と思っていただける会社という風に思っております。定年を迎えるときに「自分はトヨタとともに(生きて)いい人生だったな」(と思って)、自分に近い存在の人、例えば子どもや非常に近い人を「またトヨタで働かせようではないか」という風に思っていただく。

 私なんかは、その最たるものだと思っております、トヨタ3代目になっているわけですから。やはりそれぞれの先祖が定年を迎えたときに「子ども、孫を働かせよう」という従業員の方はたくさんおられます。基本的な従業員に対する思いというのは、そういうことだと思っているわけです。

 残念ながらこの本当に急激な市場の変化によって、いろんなところにご迷惑をおかけしていることは重々理解してはおりますが、その気持ちは今までもこれからも変わっていかないという風に思っておりますので、何卒ご理解たまわりますようよろしくお願いいたします。

――14年前に奥田さんが社長になられた時に「トヨタは資産を吐き出しても雇用を守る」とはっきり宣言された。その後10年間トヨタは1人もクビを切らなかった。今は状況が違って非正規雇用の問題がクローズアップされているが、非正規雇用も含めた雇用問題をどういう風に考えられているのか。

豊田 私にとりまして、同じ生産ラインで汗を流したり、机を並べて議論を交わした仲間といいますのは、いわば家族のようなものと思っております。彼ら1人1人にとって、働く場は単に生活の原資を得るための場というわけだけではなく、友人を得たり、また自分を成長させたり、また社会に貢献する場であると思っております。

 すなわち、それぞれの方の人生そのものである雇用の安定、維持というものは、企業にとり極めて重要な役割と認識しており、今後も法律や契約の枠の中で精一杯努力したいという風に思っております。中長期的にはこれにより企業体質が強くなるという風に確信しております。

 そのためにも「雇用は自ら作り出すもの」という強い信念を持ち、労使一体で我慢しながら会社を再生させることが重要だと思っております。このことが企業として責任を果たすための大前提という風に考えております。

――以前から奥田相談役などが豊田家の求心力の重要さを語っておられたと思うのですが、豊田副社長は求心力についてどうお考えになっておられるのでしょうか?

豊田 豊田の姓に生まれたことにつきましては、私に選択権はございませんでした。私は今までもそうでありましたように、これからも「豊田章男として私がやるべきと信じること、私にできることを精一杯やっていきたい」と考えております。

 よく奥田相談役が言われる“旗”ということがありますが、私は決して旗という風には思っておりません。名誉会長などの方々は旗だと思いますが、私も20年後30年後、グループ各社からそう言ってもらうように日々精進し、研鑽(けんさん)を重ねてまいりたいと思います。

 私自身はずいぶん長い間、豊田章一郎名誉会長に仕えてまいりました。その中で常に教えられたのは、さっき章男副社長も言っていましたが感謝、お客様に対する感謝の念(です)。いろんな人に対する感謝の念を、常に一番大切にしていました。

 それから「いい会社(になる)ということ。ストロングカンパニーではなく、グッドカンパニーになるんだ」ということを言っておられました。やはりそういうのは豊田家だからこそ出てくる(言葉で)、常に真ん中にいてそういう風に見ておられるからなのだなあ(と思いました)。私は何回も何回もそういうことを(見聞きして)、はっと反省したりあるいは勉強したりしました。やはり豊田家というのは単に旗印とか求心力というのではなく、やっぱりこういう行動でちゃんと裏打ちされている、「我々みたいなサラリーマンとはちょっと立場が違うのではないか」とは思っています。

笑顔は見られず

 社長内定会見は、当人にとって晴れがましい場であるはず。しかし先行きの不安からか、会見後の写真撮影でも豊田副社長の心からの笑顔を見ることはできなかったように思えた。

先行きには難題が山積する
前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.