現場に一番近い社長でありたい――豊田章男氏のトヨタ社長内定会見を(ほぼ)完全収録(3/4 ページ)

» 2009年01月21日 09時20分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

新しい100年のために

T型フォード(出典:トヨタ博物館

――米国でオバマ大統領が就任する同じ日に社長内定会見をされた、ということをどうとらえたらいいのでしょうか?

豊田 大変大きな質問をぶつけられてどうお答えしていいか分かりませんが、そういう日が偶然にも重なったことは光栄に感じております。

 私どもの自動車業界を顧みますと、ちょうど昨年(米国で)T型フォードができましてから、ちょうど100年。同じ時期にゼネラル・モーターズが産声をあげて100年、それから100年経った時に100年に1度の経済危機(が起こった)というのはどういう意味があるのか。

 この100年、20世紀に自動車産業が発展した理由は多々あったかと思います。産業革命が始まり、そこで起業した企業家、その労働者が即消費者になれた、私どものお客様になれた、ミドルクラスのお客様になれた(のが一因)。かつ自動車産業への憧れなど、「すべてが20世紀は整っていた」と思っております。

 それが今ちょうど100年経った時に、「今までとは違うぞ」と(感じるようになったのです)。ヘンリー・フォードがT型フォードを作られる前に、「今より早い馬を作ってください」というお客さまのご要望があったようです。当時、米国には1600万頭の馬がいたように聞いております。

 ちょうど昨年前半まで、米国には(年間)1600万台のクルマ市場がございました。「今より早い馬を」という時に、ヘンリー・フォードさんはT型フォードを出されて、T型フォードは1車種1色でも世界で1500万台販売されました。そういう意味で、「今度は今のクルマに変わっていくものを期待されているのではないか」と、「21世紀も自動車産業頑張れ」という節目の時期に来たということを大変重く感じております。

 ですからそういう意味で21世紀、これからの100年を思った時に、「自動車頑張れ」という風に皆様方からも、また市場からも、お客様からも言っていただくように、本当に微力ではありますが「(トヨタ自動車の)皆様と協力してやっていきたい」と思っております。

 私どもには本当にすばらしい販売店、すばらしい従業員、すばらしい支えてくれる仕入先があります。ですからトヨタ1社ではなかなか難しいとは思いますが、「みんなと協力をすれば、きっと次の100年も支えていける産業に育っていくだろう」という風に(信じて)頑張っていこうと思いますし、「ぜひとも皆様方の応援をいただきたい」(と思っております)。

立ち上げに携わったGAZOO内で豊田副社長自らが書いているブログ

――「大胆な改革」との言葉がありましたが、イメージをいくつか教えていただければと思います。

豊田 まずは現職を任期満了まで精一杯勤めさせていただきたい。まだ時間がありますので、いろいろと具体策は考えてまいりたいと思います。

 ただ基本的な考えは、“お客様第一”“現地現物”という創業の原点に回帰し、これまでトヨタを築き上げてくださった皆さまに感謝しながら、その思いをそして彼らの持った理想をしっかり引き継ぎながら、また過去に縛られることなく、大胆に勇気をもって変革にチャレンジをしていくことだと思っております。

――2009年以降も販売不振が世界的に続くと思われますが、商品戦略や販売戦略などでどういう風なことをお考えなのかお教えください。

豊田 今後の状況が変わっていく中での商品戦略でございますが、これは言い古された言葉だと思いますが「お客様の声を聞く」ことに尽きると思っています。お客様がこの先どういうライフスタイルを求め、どういうクルマを求めているのか。幸いにも私どもフルライン※で商売させていただいておりますので、そのフルラインの役割、使命について考えてまいりたいと思っております。

※フルライン……トヨタ自動車では低価格小型車から高級セダンまで、ほとんどすべての自動車セグメントの車種を製造している。

 具体的には、今後も販売店さんがそれぞれの国で「トヨタとともに持続的な成長を歩んでいきたい」と思えるような商品ラインアップがどうあるべきかをずっと研究してきております。

 しかしながら、ここに来まして急激なマーケットの落ち込みがありますので、それがどう影響するかというのも、今現地と(一緒に)一生懸命悩んでいるところでございます。

――業界を取り巻く事業構造が大きく変わろうとしていると思うのですが、これから先のトヨタの強みはどのようなところに置くべきなのでしょうか?

豊田 「トヨタは70年の歴史の中で、60年は苦労の連続だった」という風に思っております。その中で「明日は今日より良くなるぞ」という希望を持てたこと、そしてそれを支えた現場があったこと、(トヨタの強みは)これに尽きるという風に思っております。

 ですから私自身、「一番現場に近い社長になりたい」とあいさつの中で申し上げさせていただいたように、その(希望を持てるような)現場を大切にしたいと思っております。

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