「ドルの罠」に翻弄される中国……それでも“したたか”に藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年07月13日 07時57分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 最近の中国は自信満々だ。2008年9月のリーマンショックの後、いち早く総額4兆元(約60兆円)の景気刺激パッケージを発表して、11月にワシントンで初めて開かれたG20首脳会談に乗り込んだ。

 2009年3月には、中央銀行である中国人民銀行の周小川総裁が、世界の準備通貨がドルに偏っていることが今回の金融危機の根底にあるとして、決済通貨のドル偏重を是正すべきであるという論文を発表した。ドルの代わりにIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)を準備通貨にしようというのである。

ドル相場の低落に、我慢ができない中国

 イタリアで開かれたG8でも、国内政治基盤を失いつつある日本の麻生太郎首相は、やはり国際的にも“軽量級”扱いされてしまった。それに対して新彊ウイグル自治区での争乱事件で、胡錦涛国家主席がサミットの拡大首脳会合を欠席した中国のほうが、よほど存在感がある。

 このサミットでも、世界の準備通貨としてドルが支配的な立場にいる状態に、新興国から不満が表明されている。現在、世界の準備通貨は6兆5000億ドル、そのうち65%がドルであり、ユーロは26%、ポンドが4%、円が3%、その他が3%である。中国だけでこの準備通貨の約3分の1を保有しているが、この内ドル以外の資産が35%を占めている。

 中国にしてみれば、ドル相場の低落によって、中国の資産が減る(つまり損をする)ということが我慢できないということのようだ。日本も1兆ドルぐらいの外貨準備高があるわけだから、例えば1ドル=100円が90円になれば、100兆円の資産が90兆円になってしまうという計算になる。

 中国の外貨準備が「多様化」しつつあるのはドルの目減りを防ぐためだ。もちろん中国がドル資産を急激に減らすことになれば、当然、ドルは暴落することになる。そうすると中国の資産がますます減ることになるから、そう急激に減らすことはできない(これを「ドルの罠」と言うのだそうだ)。だからSDRという選択になってくるのだろう(SDRは主要通貨バスケットで平価が決められているから、ドルをSDRで置き換えていけば、ドルを売るときほどの影響は出ない)。

 このSDRはもともとIMFが1969年に外貨準備として設計したものではあるが、実際に外貨準備としてはきわめて限定的にしか使われていない。世界の準備通貨のうち1%にも満たないのである。今回IMFは資産の強化を目指して初めてのSDR建て債券を発行することにした。そしてこの債券の購入を決めたのが、中国、ロシア、ブラジルだ。欧米寄りとされてきたIMFに発言権を持ちたいという意欲の表れでもある(世界銀行は米国が総裁を出し、IMFはヨーロッパが専務理事を出すという「暗黙の了解」がある)。

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