「働くことしか才能がない」……。“共感なき政治家”は去るのみ藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年07月27日 08時03分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 もともと失言の多い政治家である麻生太郎首相。「元気な高齢者をいかに使うか。この人たちは皆さん(青年会議所のメンバー)と違って、働くことしか才能がないと思ってください。働くということに絶対の能力がある。80過ぎて遊びを覚えても遅い。遊びを覚えるなら青年会議所の間くらいだ。そのころから訓練しておかないと、60過ぎ、80過ぎて手習いなんて遅い」と発言してまたまた物議を醸している。

 「働くことしか才能がない」というところが高齢者を揶揄(やゆ)したものと受け取られ、反発を食っているのだが、麻生首相は「発言の一部だけを切り取られた」とまたしても不満顔だ。真意は、元気で活力のある高齢者に社会参加をしてもらって、働ける、そういった機会を与える、そういう場を作る、それが活力ある明るい高齢化社会なんだと言いたかったのだそうだ(朝日新聞の報道による)。

共感を欠いた発言が多い

 青年会議所という「身内の会合」だからついつい油断したのかどうかは分からないが、それにしても「遊びを覚えるなら青年会議所の間くらい(つまりは40歳まで)だ」とはよく言ったものだ。要するに、それぐらいまで遊べる(だけの資産がある)人間しか遊んじゃいけない、それ以外の人間は働けと言っているようにも聞こえる。

 だいたい麻生総理は、国民に対する共感を欠いた発言が多い。経済財政諮問会議では、自分は毎朝ウォーキングをして体調を保っているが、同じ年齢の連中を見ていると、酒を飲んだりして体を壊している連中がいる。そういった人たちの医療費まで自分が払っている、という主旨の発言をした。これなどは健康保険制度の主旨をまったくわきまえない発言である。もともと健康保険制度は、お互いの助け合い制度であって、健康な人が病気や怪我になった人たちを助ける互助会のようなもの。それにいくら健康に留意していても、怪我しないとも限らない。このような発言は、酒屋でやる与太話の類である。

 こういった発言を、「麻生さんは人を楽しませようとしてつい口が滑る」と弁護する政治記者がいる。森喜朗元首相のときもよくそういう“解説”を聞いた。「神の国」とか「有権者は寝ていてくれたほうがいい」とか、要するに聴衆をエンターテインしようとするあまり、つい言い過ぎるというのである。

 しかしこういった“弁護”は完全にピントが外れている。一介の代議士ならいざ知らず、首相というのは国の指導者であり、国を代表して世界のリーダーと渡り合う存在。もし聴衆を楽しませるために口が滑るような人間なら、そもそもリーダーとしてあまりにも軽い。政治家になって一国の指導者になれば、自分の一挙手一投足がメディアによって子細に報道されることは分かり切った話だ。だからこそ、一言一句おろそかにすることはできないはずなのである。

 そして衆議院を解散して事実上の選挙運動をしているときに、こういった「失言」(あるいは揚げ足を取られるような発言)をすることは、どうしようもなくKYであるということになる。麻生首相がなぜかくもKYなのか。それは政治家として最も重要な資質を欠いているからに他ならない。「共感」である。

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