トイレとウォシュレットはどのように変化してきたのか?嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(4/4 ページ)

» 2009年08月01日 00時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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世界へと飛翔するウォシュレット

 ウォシュレットを中心としたTOTOのトイレ周りの商品は、今後の世界市場で、どのような発展を遂げようとしているのだろうか?

 「ターゲット層を申し上げるならば、それは、世界各国の意識の高い富裕層、すなわちハイエンドな顧客です」と林さんはキッパリと言い切る。

 それには、明確な理由がある。

 世界の人々のトイレ事情は、我々日本人が想像する以上に多様を極めている。現在でも男性の9割が座って小用をし、女性の9割が立って小用をする国がある。それだけでも驚きなのに、世界各国では男女を問わず、大でも小でも立位・中腰・しゃがみ込みなど、実にさまざまな体勢で用を足しているのである。

 それも我々がイメージするトイレという密閉空間の、しかも便器の中で行われると考えるのは一方的過ぎる見方で、中には水中でないと用を足せない国民もいる。さらには男女を問わず、大であれ小であれ、用をたした後で拭くという習慣のない国も多い。

 これらの違いは宗教的な戒律や民族衣装の形態的制約、さらには気候から来る必然性、食生活の特性から来る便質の違いなどに起因し、それらが相互に絡まって現在に至る排便習慣をもたらしているのである。

 しかし、いかにこうした相違が存在しようとも、どんな国でもハイエンド層といわれる人々は、そうした歴史性・地域性を片方に持ちながらもグローバルスタンダードを指向し、世界の先進的なテクノロジーをいち早く自らのライフスタイルに取り入れていく積極性と経済力を有している。だからこそTOTOも、まずはそうしたターゲット層を指向することになる。

 「例えば中国で、ハイエンド層が全人口の仮に1%だったとしてもですよ、一体どれくらいの数になると思いますか?」。そう言って林さんは微笑む。

 今年TOTOは、欧州でのデビューを果たした。「欧州では、機能性よりもデザイン性が求められるんですよ」。いかにハイエンド層といえども、米国ではまずヒーター機能が注目されたように、国・地域によって、目のつけどころは異なる、ということなのだろう。

TOTOと、日本のトイレ文化の今後

 便器が陶磁器製品からハイテク製品へと変貌してから既に20年以上の月日が経過した。それとともに、この事業分野への世界的エレクトロニクス企業の参入も進み、さらには樹脂製便器の開発も進展していると伝えられる。

 将来の業界勢力図が、どのようなものになるのかは、筆者には分からない。しかし、1917年の創業から90余年。トイレへの並々ならぬ思い入れをもって、次から次へと驚くべきイノベーションを実現してきたTOTO。

 こうした「トイレから文化を作っていきたいという想念の深さ」と「イノベーティブな社内風土」が脈々と息づいている限り、どんな厳しい業界環境になろうと、生き残ることは可能なのではないか、と筆者は思う。林さんの開発チーム、そしてTOTOがいったいどんなトキメキに満ちたトイレを世に送り出してくれるか、楽しみである。

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


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