クライアントを怒らせる方法、教えます(1/2 ページ)

» 2009年08月26日 07時00分 公開
[家弓正彦,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:家弓正彦(かゆみ・まさひこ)

株式会社シナプス代表取締役。グロービス経営大学院教授。

1959年神奈川県生まれ。松下電器産業でFA関連機器のマーケティングを担当。その後、三和総合研究所を経て、株式会社シナプスを設立。経営戦略、マーケティング戦略を中心としたコンサルティングに従事。同時に、「マーケティング・カレッジ」を立ち上げ、マーケティングに特化したビジネスマン教育事業に取り組む。


 経営コンサルタントの仕事において、クライアントを怒らせることは簡単です。いや、どんな仕事においてもクライアントとのコミュニケーションは、常にリスクをはらんでいると言えそうです。

 ビジネスにおける売り手の立場に立てば、自分(商品)の価値をより大きく見せたいという「悪魔の誘惑」があります。いや、プライベートでもそんな気持ちに駆られることはありますよね。しかし、それが致命的な落とし穴だったと気付くのは、すっかり相手を不快にさせた後だったりするのではないでしょうか?

 ということで、今回は「クライアントを怒らせる方法」を考えてみました。皆さんは、クライアントを怒らせたこと、ありますか?

信頼を築く前に上から目線

悪魔のアドバイス

 経営コンサルタントは、クライアントに経営をアドバイスする立場ですから、常に「先生」としての上位のポジションをとることが必須です。

 そのためには、まずは最初が肝心です。とにかく、相手に対して、威圧的に「上から目線」で語り、「ああしろ!」「こうしろ!」と一方的に指示すると良いでしょう。そうすることで「私はあなたより上の立場にいる」と思い知らせるのです!

家弓のアドバイス

 経営コンサルタントはまた、常にクライアントより「知識」や「ノウハウ」を豊富に持っていなければならないという恐怖におびえているんです。その表れが、一歩間違えると不遜な態度に出てしまうのではないかと思うのです。

 しかし、ビジネスの立場は常に対等ですよね。そういう意味では、売り手は買い手に対して下手にへりくだる必要もありません。クライアントは、コンサルタントに対して、「彼なら適切なソリューションを提供してくれそうだ」と感じてもらえれば、信頼し、適切な対価を支払ってくれるはずです。常にクライアントとは対等な立場で最適なソリューションを探索したいものです。

一方的に喋り、相手に話をさせない

悪魔のアドバイス

 コンサルタントの最大の武器となるのは「流ちょうなトーク」です。一般にコンサルタントには「弁の立つ」方も多いので、その強みを生かすのです。

 弁舌鮮やかに、一方的に喋り、相手を圧倒しましょう。きっとクライアントは、貴方の喋りに感服し、尊敬の念を抱くはずです。

家弓のアドバイス

 確かにコンサルタントには弁舌鮮やかなタイプが多いようです。そして、コンサルタントの職業的使命感として、「何とか有用なノウハウを提供しなければ……」という強迫観念もあるはずです。でも、それが逆にクライアントのストレスになることも多いようです。

 コンサルタントの役割は、その経営のアドバイザーであり、あくまで主役はクライアントですよね。クライアントの望みは「わが社のことを十分に理解し、最適な提案をしてくれること」であるはずです。それにもかかわらず、クライアントの言うことに耳を貸さず、一方的にまくしたてるコンサルタントに信頼を寄せることはないでしょうね(参照記事「質問するチカラ」)。

相手の意見を全否定する

悪魔のアドバイス

 コンサルタントの付加価値は、クライアントに新たな変革をもたらすことです。そういう意味で、決してクライアントの意見に同調してはいけません。必ずクライアントの主張は否定して、コンサルタント独自の見解を示し、相手の意識変革をうながしましょう。

 仮に、クライアントがさらに反論してきても、「私の経験では……」と言って、豊富な経験を武器にしてクライアントを論破し、服従させると良いでしょう。

家弓のアドバイス

 確かに新たな視点や考え方を示すことは、コンサルタントの重要な役割です。上記の発想は、それが行き過ぎたケースと言えるでしょうね。しかしまずは相手の状況を理解し、主張をいったん受け入れるコミュニケーションをとりたいものです。

 有名な対話法に「Yes But法」ってありますよね。

Yes:「確かにそのような考え方もありますね」

But:「しかし、このような考え方もあるのではないでしょうか?」

 相手の言うことを常に否定的にとらえると「現場の実情も知らないクセに……」とか、「教科書的なことばかり並べやがって……」と反感を買うだけだと思うのです。

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