セレブ御用達ドリンク「グラソービタミンウォーター」は日本に広まるかそれゆけ! カナモリさん(3/3 ページ)

» 2009年08月31日 07時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
前のページへ 1|2|3       

イノベーション普及論で考えてみる

 200円を払って実際に商品を購入しているのはどんな人々か、E.M.ロジャースのイノベーション普及論で考えてみよう。米国の社会学者であるロジャースは、イノベーションがどのように社会や組織に普及するのか実証的研究を行い、採用時期によって採用者を5つのカテゴリに分類している。

 冒険的でリスクを好み、1番最初に採用するのがイノベータ(Innovators=革新的採用者)である。しかし、新しいものにすぐ飛びつくイノベータが採用しただけでは普及は継続しない。ロジャースは、市場にイノベータは2.5%しか存在しないとしている。

 その価値を正しく理解し採用する層を「アーリーアダプタ(Early Adopters=初期採用者)」という。市場に13.5%存在し、自ら情報収集をし、人への伝達力も強いことから、この層が採用すると、市場全体への浸透が加速するといわれている。

 続いて採用する層は「アーリーマジョリティ(Early Majority=前期採用者)」である。比較的慎重な行動を取るが、平均より早くに新しいものを取り入れる傾向がある。市場全体に34%存在するといわれているここまで取り込めれば、市場の半数を抑えたことになる。

 革新的な技術や製品の普及には、「イノベータ」に続く、「アーリーアダプタ」の取り込みが欠かせないと、ロジャースは言う。

 グラソービタミンウォーターの次なる課題もまさにそこにあるのだろう。

スキミングプライシング:値段を下げて順次ターゲットを拡大する?

 新商品の展開において明らかな差別化要因をもってイノベータ層を取り込み、プレミアム価格をもって展開する価格設定を「スキミングプライシング(Skimming Pricing=上澄み吸収価格設定)」という。読んで字のごとく、市場の上澄みのオイシイところを吸収し、さっさと投資回収をするのがキモである。

 対極にあるのが「ペネトレーションプライシング(Penetration Pricing=市場浸透価格設定)」である。収支ギリギリの低価格で一気に市場に浸透させシェアを確保することを目的とする手法だ。その場合、最初から収支ギリギリなので価格は下げられない。幅広いターゲットに一気に浸透させてシェアを取ることがキモなのだ。

 今回の場合、サンプリングやイベントに投下した費用は莫大であり、なかなか回収できるものではない。だとすると、もっとターゲット層を拡大する必要があるだろう。スキミングでスタートを切った場合は、ターゲットを見極め、普及状況を考慮して、段階的に値下げをして裾野を広げていく余地がある。

グラソービタミンウォーターの今後の展開

 まとめると、今はイノベータ層が200円のプレミアム価格で「気分」よく購入している状況。今後は販売チャネルや販売地域を拡大しつつターゲットの裾野を広げていくに違いない。すると、前述のような順次値下げも考えられる。テレビや新聞、雑誌などマス広告を大量に投入してくる可能性もある。

 きっとマーケタ―は、胃薬片手に、市場をつぶさに観察し、ティッピング・ポイントを迎えるべく、次なる仕掛けを用意しているに違いない。そんなことを考えながら、楽しい気分に乗って200円払って飲んでみるといいだろう。

 セレブでオシャレで、楽しい気分にさせてくれるグラソービタミンウォーター。1つの商品が市場に投入されたとき、どのように社会に“感染”していくのか、感染をマーケタ―がどのように仕掛けるのか、ウォッチしているのもまた、楽しみ方の1つではないか。

 さて、ここまで一気に書き上げて少々疲れてしまった。そんな時には「energy kick トロピカルシトラス ビタミンB6+ガラナ+カフェイン」だ。さて、お味は……、う〜ん、水で薄めたうす〜いオレンジジュースの味がする……。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダ イヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.