金融危機を乗り越えるカギは友愛主義だ――アタリ史観とは?郷好文の“うふふ”マーケティング(1/3 ページ)

» 2009年09月24日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・実行、海外駐在を経て、1999年より2008年9月までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。 2008年10月1日より独立。コンサルタント、エッセイストの顔に加えて、クリエイター作品販売「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『ナレッジ・ダイナミクス』(工業調査会)、『21世紀の医療経営』(薬事日報社)、『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など。2009年5月より印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン


 金融危機後、どんな視点を持ち、いかに生きていくか。

 それを考える機会になったのが1冊の本だ。旧友の作品社の内田眞人編集長からいただいた『金融危機後の世界』。以前彼が翻訳出版した『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』の続編とも言える本、帯には「世界は金融資本主義を制御できるか?」とある。著者はジャック・アタリ氏。

 ミッテラン政権で大統領特別補佐官を務め、サルコジ大統領のもとで「アタリ政策委員会」の委員長として政策提言をまとめた“フランスの知の巨人”である。9月16日〜18日の来日日程の中、東京日仏学院での記者会見、そして早稲田大学で熱気ムンムンで行われた講演会で彼は、金融、財政や市場経済にとどまらず、高齢社会と少子化、環境問題と幅広く、“金融危機前の世界と後の世界”を語った。

アタリ史観と友愛主義

 収穫は2つあった。まず“アタリ史観”を持つということ。彼の視点でこの経済恐慌を見ると、情勢分析もこれからの方針も、個人の生き方さえも明確になる。まるで新聞の1面から5面くらいまで、いやスポーツ面や社会面のトピックまで、“串を通すように”アタマの中でつながる。大新聞に向かっておこがましくも「おいもっとアタリ史観を持って書けよ」と言いたくなるほどだ。

 もう1つは“友愛主義”である。金融業に広がるエゴイズムを制御して、自己の利益よりも、他者の利益を優先する利他主義者や利他ビジネスを増やさなければ、恐慌は何度も繰り返す。友愛主義はくしくも鳩山新首相のキーワードでもある。このワードは恐慌克服の核心である。

 アタリ史観から見て危機は去ったのだろうか? 答えはウィではなくノン。確かに株式市場には資金が流入しつつある。人々の心からは不安が払拭(ふっしょく)されつつある。だがそれはバランスを崩したあとの一時的な揺り戻しに過ぎない。「市場主義と投機筋の横暴がある限り、恐慌は今後も繰り返す」とアタリ氏は言う。記者会見と講演、そして著書の内容からまとめよう。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.