講演会には衆議院議員の田中康夫氏の姿も見えた。「デリバティブという悪魔はブードゥー教のようにまた起きるのではないか。誰がどのように規制すべきか?」と質問した。
アタリ氏の答えは明瞭。「悪魔はパラサイトのようにまた現れる。銀行はあくまで金融サービスを提供するもの。投機業務は禁止すべき。むしろ保険業のようなリスク回避領域でその知恵を使ってほしい」。“インサイダー情報”の偏りから富の偏在が生まれるのだから、投機業務を規制すべし、それが氏の主張である。
経済は自由主義でいいのか? 彼はこう問いかける。
過去1000年、人類は個人の自由を大切にしてきた。市場自由主義は、商人に地球上どこでも商売する自由を与える。株主から資本を集め、金融投資を行い、従業員のリストラまで自由に行う。
一方、政治の自由主義は、国という場所に限定されている。だから国と国、国と個人や法人がチグハグに行動する矛盾が生じる。石油や水という資源、温暖化ガスや気候変動への対処が、国同士の綱引きでまとまらないのを見れば明白である。
自由主義は、行き過ぎると自殺行為になる時もある。だからこそ、金融危機の実行犯を糾弾する“階級闘争”をするのではなく、再び過ちを起こさない“世界統治”のルール作りが必要になってくる。
その起点となるのが“友愛主義”である。「他人の幸福や利益を目的として行動する労働だけが、富を得ることを正当化できる」(『金融危機後の世界』)友愛主義でインサイダーの欲望を制御しよう。
他者の幸福を増やす仕事とは芸術。とりわけ音楽は国境がない「世界最初のグローバルアート」とアタリ氏は主張する。講演会場で見かけたもう1人の著名人、サンプラザ中野さんはミュージシャンとしてどう感じただろうか?
爆風スランプの代表曲『Runner』には「君はすこし うつむいて もう戻れはしないだろう といったね」という一節がある。私たちはもう戻れないのだろうか? いや、そんなことはないさ。他人の幸せ=自分の利益であることに気付いて、この危機を乗り越えよう。
→『金融危機後の世界』
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