フルラインアップ経営は必要か――スリム化に踏み切れない在京紙相場英雄の時事日想(2/2 ページ)

» 2009年09月24日 10時50分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]
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フルラインアップは必要か

 在京紙と地方紙の大半は共同、あるいは時事といった通信社と配信契約を結んでいる。地方紙の場合、首都圏の首相官邸、あるいは他県の県警クラブにくまなく記者を配置することが物理的に無理なため、自身のテリトリー以外の記事の大半は通信社電を利用する構図が古くから出来上がっている。

 半面、在京紙は通信社の記者を上回る自前取材網を全国各地に配置。地方紙も交えて日夜取材合戦を繰り広げている。だが、昨秋まではこうした自前主義が成り立っていたが、折からの大不況とともにこの態勢がきしみ始めた。広がり過ぎた取材ネットワークが固定費の高さに直結し、「最近の取材経費のカットがハンパではない」(在京紙の地方担当)という事態に直面しているのだ。

 先に触れたように、広告出稿量の激減とともに、広がり切った取材網、すなわち人件費が経営を圧迫していることにようやく在京紙各社が気付いたという次第なのだ。

 今までは黒塗りハイヤーを当たり前のように乗り回していた記者たちの多くは、現在法人タクシー、あるいは電車での夜回り取材を強いられているほどで、「社内のケチケチ運動で記者の士気は下がるばかり」(某紙編集幹部)というのが実状だ。

 こうした現状にも関わらず、在京紙の大半はいまだに自前にこだわる。たとえそれがメディアの財産である記者の士気を下げることに直結しても、なのだ。

 本コラムの第1回目で触れたが(関連記事)、在京紙の経営幹部の大半は記者上がりで、ビジネスセンスはゼロに等しい。「上層部は広告量が回復するまでの我慢と言っているが、広告が戻ってくる確率は低い」(同)ことにまだ気付いていないのだ。

 筆者は通信社の出身だ。ここまで触れてきた話は、通信社を利するために在京紙にリストラを迫っているのではない。このままフルラインアップの経営を続けていれば、間違いなく在京紙同士の消耗戦が展開され、読者に届く記事の質低下、ひいては会社の存続さえも危うくなるとみているのだ。

 また、先の在京紙のリストラをめぐる噂をくさしているのではない。一般企業の多くが取り組んでいる当たり前のことを、ようやくマスコミが考え始めたのだと評価するつもりだった。

 産業界では、電機を中心に得意分野に経営資源を集中させる事業再編が相次いでいる。こうした流れの中で、同業他社との間で合併・買収(M&A)も起こっている。再販面などで規制に守られているとはいえ、マスコミも一企業である。フルラインアップの呪縛から解き放たれ、得意分野に経営資源を投入する在京紙が出てくることを望んでいるのは筆者だけではないはずだ。

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