水素充填を初体験。究極のエコカー、ホンダ「FCXクラリティ」に乗ってみた (後編)神尾寿の時事日想・特別編(3/3 ページ)

» 2009年10月05日 13時15分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
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 ステーション内では「ゴオン、ゴオン」という音が鳴り始める。有明水素ステーションでは大型タンクに液体水素を貯蔵しており、それを一度気化させてから蓄圧タンクで加圧し、クルマ側に充填する仕組みになっている。FCXクラリティの場合は350気圧だ。ステーション全体から発する音は、気化作業や高圧化時に発するものだという。目をこらしてみると、液体水素タンクから伸びるパイプには空気中の水蒸気が結露して白い煙がまとわりついており、その様子は「発射準備中のロケット」のようだ。なお、有明水素ステーションは日本で唯一、水素ガスと液体水素のどちらでも供給可能な設備を持つ水素ステーションだという。

水素充填中

 水素充填が終わると、再び水素チェッカーでガス漏れを調べて、問題がなければ充填終了。今回はフル充填ではなかったこともあり、充填そのものの時間は5分弱であった。水素ガスの充填は、ガソリンの給油に比べれば時間がかかるが、EV(電気自動車)の充電よりはすばやく終わる。航続距離の違いを考えれば、十分に納得できる待ち時間だろう。

実用化の課題は「価格」と「インフラ」。FCV時代は到来するか

 今回のFCXクラリティの試乗を通して感じたのが、FCVという“未来のクルマ”が、クルマそのものとしてはすでに完成されているということだ。これまでのガソリン車とはまったく違う乗り味であるが、その静かでスムーズな走りはむしろ好ましい。ハイブリッドカーやEVと同じ「エコ時代の新しいクルマ」として、十分に訴求できるクオリティに達している。

 しかし、FCXクラリティは「いま買えるクルマ」ではない。

 FCXクラリティは、アメリカでは市場導入試験としてごく少数が一般リース販売されているが、日本では一部の政府機関や企業に提供されているのみだ。FCVはいまだ製造コストが高く、まともに市販すれば1台1億円近いプライスタグがぶらがってしまう。高価格であることが、FCVにとって大きな課題になっている。

 また、水素充填のためのインフラ整備も、FCV時代到来の前に立ちはだかるハードルだ。例えば、東京都内の水素ステーションは今回筆者が訪れた有明水素ステーションを含めて3カ所しかない。高コストなFCVが普及するめどがたたない中で、水素ステーション網が全国に整備されるのは難しい。さらに水素ステーションに液体水素を配送するためには専用のタンクローリーが必要であり、こうした輸送面での課題も多く残されている。

 1台のエコカーとして見れば、FCXクラリティはとても魅力的で、“究極のエコカー”に恥じないものに仕上がっている。FCVが数多くの課題を乗り越えてガソリン車の後継になれるかどうか。新たなクルマの1つとして、今後も注目していきたい。

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