弘兼憲史氏&青年漫画誌編集長が語る、漫画編集者の仕事とは劇的3時間SHOW(3/5 ページ)

» 2009年10月21日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

編集者になるためには

『ビッグコミックオリジナル』の吉野彰浩編集長

弘兼 漫画の編集は結構エキサイティングで楽しい。場合によっては独立して大金持ちになれるという仕事なのですが、どうやったら編集者になれるのか。普通は会社に入らないといけないですよね。

古川 講談社や小学館の社員という意味では入社試験を受けないといけないですね。しかし採用されても、漫画に行くか、文芸をやるか、販売にいくかというのは分かりません。全部一括で社員を採用するので。

弘兼 入社試験を受けるのですが、出版社の場合ものすごく倍率が高いんです。僕も学生のころ、あきらめました。1000人が受けて、5人くらいしか採用されない。995人ぐらいは「さようなら」ですね。宝くじみたいなものです。ただ、数百倍の倍率をかいくぐってきた奴がどれだけ優秀かというと、そうは良くないですよね(笑)。

 採用されるには面接の印象がよくないといけないのですが、出版社には三題話という変な試験もあります。3つのお題が出て、それで作文を書きなさいというものです。例えば「犬」「ダイヤモンド」「海」、このキーワードで1つのショートストーリーを原稿用紙2枚ぐらいで書けといったものです。だからこの訓練をしておくと、採用されやすいということになる。

古川 その試験ですごくいい作品が出てくるとは思っていないのですが、何か突拍子もないというものが欲しいんですよね。常識的にきれいにまとめるよりも、「こいつ何考えているんだ」みたいなものがある人を、出版社の人間は採用する可能性が高いと思います。だから間違えて採用したりして、「0点か100点の人しかいない」ということになるのですが。

吉野 1人当たり50枚くらい審査させられるんです。そうすると同じような事を書いている人ばかりなんですね。最初はいいのですが、「これも同じか」というのが続いていて、「あ、こいつだけは考えが違う」と思うのがあると、点が高くなったりするんですね。

古川 面接も個人や部署によって違いが出てきますよね。『モーニング』編集部の人が面接するのと、『週刊現代』編集部の人が面接をするのとでは採り方が違います。どの面接のブースに入るかという運もありますよね。でも、仕事の時には運を持っているかどうかが実は大事になってきますよね。

弘兼 運は人生全部言えてしまうのですが、漫画家にとってもどの編集者が最初につくかで人生決まってしまうんです。ものすごくいい作品描いたのに編集者がアホだった場合、「こんなの面白くないよ」と返されて、それで終わってしまう人もいるんですよ。もったいないですよね、これは。

吉野 『ビッグコミックオリジナル』では『』という山登り漫画を連載しているのですが、最初に担当編集者が当時副編集長だった僕にネームを持ってきた時、僕は「正直連載はまだ早いんじゃないかな」と言ったんですね。するとその編集者がへそを曲げて、別の副編集長のところに持っていったら、「いいんじゃないの」ということで掲載することになったんです。結果的に今ヒットしていて、僕はすごく応援していますが、「この商売怖いな」と思っています。僕が担当だったら、彼は世の中に出ていなかったかもしれないわけですから。

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