準優勝を勝ち取れたことに胸を張りたい――トヨタのF1撤退会見を(ほぼ)完全収録(2/3 ページ)

» 2009年11月04日 22時01分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

F1から完全撤退

 17時からの会見予定が伝えられたのは14時過ぎと、緊急の記者会見となったが、東京・文京区のトヨタ自動車東京本社には内外から200人ほどのメディア関係者が詰めかけた。質疑応答では、撤退の背景やほかのモータースポーツ活動への影響などについての質問が投げかけられた。

――「2012年まで参戦を続ける」という表明もこれまであったのですが、この時期に撤退を決断された経緯を教えてください。また昨年のホンダに続いての撤退ということで、日本の自動車メーカーの参戦がなくなるということになりますが、この点をどうお考えになりますか。

豊田 みなさんもご存じのように、私自身個人的にもモータースポーツを非常に推進している1人です。「モータースポーツを自動車文化の1つにしていきたい」と精一杯頑張ってきました。そう応援していた部分はあるものの、6月以降、社長になってからはちょっと立場が変わったということはご理解いただきたいと思います。

 昨年の経済危機以降、「F1を続けるか、続けないか」ということは社内でも大変な議論になりました。その中でも、「モータースポーツを文化として育て上げたいんだ」という強い意志のもと、山科忠専務やジョン・ハウエットTMG(Toyota Motorsport GmbH)社長を中心に、コスト削減などありとあらゆる手を尽くしてきました。

 唯一残された日本チームとして、ファンの方々から応援していただいたことを本当に感謝申し上げたいと思います。年初に富士スピードウェイでの(F1日本グランプリ開催からの)撤退を決めた時も、(F1日本グランプリの)サーキットは(鈴鹿サーキットの)モビリティランド(が担当し)、チームはトヨタとして(参加し)、全日本の気概で頑張っていくということで最終戦まで頑張ってきました。

 最終戦が終わり、今日、社内で取締役会を開きまして、「やはり今の経済状況を考えると、撤退せざるを得ない」と決定しました。しかし、ここまで育てていただいた関係者のみなさま方、そして応援いただいているファンのみなさまの期待を裏切ってしまったということで、1人のモータースポーツファンである私としても、大変苦渋の決断であったとご理解いただきたいと思います。

豊田章男社長の「ドライバーモリゾウのBLOG」

――コスト削減が撤退の最大の理由なのでしょうか? トヨタを始め、メーカー系のチームは予算の上限枠設定に反対していたと思うのですが、その辺の整合性をどう説明されるのでしょうか。

豊田 最終決断は取締役会で、みなさんの意見を聞きながらやりましたが、最終判断は私がしました。F1は残念ながら撤退しますが、私は「レースはクルマを鍛えると同時に、人を強く育てるすばらしい現場である」と思っており、そういう意味でのクルマ文化を育てるための商品作りにこれからも生かしていきたいと思います。F1だけのファンの方には大変申し訳ないと思っていますが、我々はこれからもモータースポーツを底辺から幅広く支えていきたいと思っています。

山科 「メーカー系のチームが予算の上限枠設定で反対をしていた」ととらえられています。しかし実際は、あまりにも急激な予算削減案が最初に出てきたので、「そこまではすぐには削減できない」ということで、FOTA(フォーミュラ・ワン・チーム・アソシエーション)の中で話し合いをしながら、FIA(国際自動車連盟)と交渉してきた経緯があります。(削減案に反対した)一面だけで、(予算の上限枠設定に)反対したととらえられる場合が多いのですが、必ずしもそうではありません。

――トヨタは今シーズン、ウィリアムズにエンジンを供給していますが、来シーズンはエンジンだけを供給するといったこともなく完全撤退ととらえていいのでしょうか。また、トヨタはWRCやル・マンにも過去参戦した経緯がありますが、収益が改善するまでそういった国際的なレースには参戦しないと考えていいのでしょうか?

豊田 F1に関しては完全撤退とお考えいただいていいと思います。ほかの国際レースに関しては、現在参加しているレースに関しては継続しますが、それ以外のことは今まったく白紙です。

――今回のF1撤退とハイブリッドカーに代表されるエコカー開発との関連はありますか?

豊田 私たちは東京モーターショウで、「エコカー」と「ワクワク感」の両方をアピールしました。今の地球環境を見て、100年に1度の自動車の転換期であることを考えると、環境車が大変大事であるということは否定しませんし、私たちの最重点課題であることは間違いありません。

 しかし、モビリティの中でのクルマの利点は、A地点からB地点に移動する時、そこにドライバーの意思があり、自由があるというところです。そのワクワク感を否定してはどうしようもないということで、私たちは2本の路線でアピールさせていただきました。今後のクルマの作り方においても「環境車とワクワク感を両方成り立たせるべきである」と思っており、それこそが私どものフルラインメーカーにおける役割なのではないかなと思っています。

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