冬のボーナスが下がる? いや……来年も再来年も上がらない新連載! 吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2009年11月06日 12時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

厳しく、冷たい冬の到来を予感する

 私が知る50人前後の人事コンサルタントの中では、彼らはかなりの現場志向だ。ほぼ毎日、経営者や人事部の社員らと話し合い、営業部や工場などの現場にも顔を出す。会社の裏までを実によく知っている2人がともに口にしたニュースがある。

 それは、民間信用調査機関の財団法人労務行政研究所が行った調査報告である(関連記事)。その調査結果によると、上場企業が今年冬に支給するボーナスの平均支給額は、前年の冬に比べ13.1%減の65万9864円で、7年ぶりに減少した。減少幅は1970年に調査を始めて以来、もっとも大きかったという。調査は東証上場企業のうち、夏と冬のボーナスを一括決定する会社218社を対象に、産業別労働組合を通して実施した。

(出典:財団法人労務行政研究所)

 この内容からは確かに厳しいものが感じられるが、実は冒頭で紹介したコメントのように、状況はもっと深刻である。2人のコンサルタントが指摘したのはいまよりも一層景気が悪くなるいわゆる二番底だ。

 大企業の内情に詳しい杉山さんは、こう語る。

 「傾向としては、大企業の人事部は景気が底をついた、と感じ取っているようです。しかし、まだ暗いトンネルの中であり、予断を許さないと私は思います。2番底になる可能性は捨てきれない。ただし特にメーカーは、昨年12月ころから契約社員や派遣社員、期間工などを大幅に減らしました。その影響で一部の工場では人手が足りなく、生産が追いつかないケースもあります。これでは業績は上向きになりません。そこで少しずつ、期間工などを増やしているところがあります」

 非正社員を復帰させる際の、会社のしたたかな一面も話してくれた。

 「パート社員を復帰させようとする会社の中には、かつてのように1年契約ではなく、3カ月契約にする場合があります。やはり、先行きに不安を感じているのでしょう」

 この「3カ月契約」は、注目に値する。これは私のとらえ方だが、会社は逃げ道をつくっているに違いない。この文脈で考えると、正社員のボーナスを上げない理由がより見えてくる。ボーナスをリーマンショック以前に戻さすと、逃げ道がなくなってしまう。経営者たちは、そのことを懸念しているはずだ。

 杉山さんはさらに、今後の回復へのシナリオを描いた。

 「今後のことは、景気の動向で変わりうるのですが、会社はまず、期間工やパート、そして契約社員、派遣社員など非正社員の雇用を回復させるはず。そのあとで、正社員のボーナスなどの額をリーマンショック以前に戻すかどうかを考えると思います。ただし、たとえボーナスの額が多少戻ったとしても、一気に2008年秋以前の額にはならないでしょう。もとに戻るのは、結構な時間がかかるんじゃないかと思いますね」

 上記のコメントの意味をもう一度、考えてほしい。私の見解だが、会社の本音は、正社員の労働条件(賃金など)を非正社員のようなレベルにすることにあるのではないか。その逆、つまり、非正社員の労働条件を正社員のそれに近づけることはありえない。

 中小企業に強い柘植さんは、より厳しい見方をする。

 「2番底は、ありうると思いますね。 12月のボーナスが会社員からすると期待外れの額となり、個人消費は1月〜3月と一段と落ち込む。住宅ローンなどを始め、生活が成り立たなくなる人も現れるでしょう。ボーナスを前提に、多くの人は生活設計をしているのですから……。これらのことは当然、企業活動にも悪い影響を与えます。中小企業にとっては、それが致命的。経営者は、2番底を非常に怖がっている。

 いまでも、中小企業の資金繰りは相当に苦しい。赤字がどんどん蓄積されている。中にはストレスのあまり、心の病になっている社長もいます。これで2番底になったら、どうにもならない。もはやボーナスどころではないでしょう。

 働く人はボーナスが下がることで不満があるでしょうけれど、会社の存続を優先せざるを得ないのが、現実です。私は仕事柄、多くの経営者の話を聞きますが、そこからは景気を抜け出す希望とか、光がどうしても見えてこない。私はアグレッシブに考えるほうですが、それでも明るいものが見えないのです」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.