「アウトプットするほど至らない自分を認識した」――保田隆明が大学院に行く理由(前編)社会人大学院特集(4/5 ページ)

» 2009年11月18日 11時00分 公開
[房野麻子,Business Media 誠]

「ひたすら勉強」な生活、社会人ならではの焦り

 受験勉強はそれほど大変ではないが、大学院に受かると毎日ひたすら勉強という状態になるという。保田さんの大学院生活は、6限(夜間の1限)が18時半からで90分授業。7限が20時15分に始まる。土曜日は1限が9時15分からで、最後の5限が16時45分から。土曜日に5科目を取ると、ずっと授業に出ることになるが、ほとんどの学生は土曜日でも2〜3コマにするという。しかし中には平日に全く学校に来られない人もおり、そういう人の中には土曜日に全5コマ取っている人もいるそうだ。

 課題やリーディングアサインメント(課題図書)の有無や量は、科目によって違いがあり、授業の準備に時間を取れない人は、取る科目に注意すれば比較的楽に単位が取れる。保田さんによると、金融法などの法律系の科目は予習復習があまり必要ないそうだ。とはいうものの、仕事と授業の合間にこなさなくてはならないので、一般的には課題はやはり大変だ。

 仕事との両立は非常に辛いものの、「でも、すごく楽しい」と保田さん。実務経験があることで理解も深まるという、社会人ならではのメリットもある。

 「ファイナンスは実務に結びついた学問だなと思います。学部から直接いらっしゃった方は実務を全然経験せず、アカデミックの世界だけでファイナンスを理解しなくてはならないので、やっぱり大変そうですね。実務の世界は知っているか知らないかの差があるだけで、知ってしまえばなんていうことはないんですが、実務経験がないと単純に知らないがゆえにイメージがわかない。それだけの話なんですが、イメージがわかないことの不安感はありますよね」(保田さん)

 また、社会人学生は「何を学ぶのか」や、「自分のキャリアにとって何が必要か」を認識して大学院に来ている人がほとんどだ。方向性が明確になっていない学部卒の学生に比べ、何をするべきかがはっきり分かっているので、集中して効率よく学ぶことができる。

 ただ一方では、社会人ならではの焦りも感じるという。

 「私は今度35歳になりますが、30歳代半ばって、バリバリ働いている時期ですよね。会社の肩書きはあったりなかったりするでしょうが、実質的に業務を任される立場。そのあと40代、50代につながるキャリアを作っていくという時期です。そんな時期に、昼間、自習室にこもって課題や研究をするわけです。『これでいいんだろうか』という焦りが出てくるんです」(保田さん)

 特に、新卒の学生が多い場合には、焦りに拍車がかかるようだ。

 「少しだけ通った公共政策大学院は基本的に学部新卒者向けで、学生は22〜23歳の若い人たちです。彼らの将来はというと、官僚とかなんとか総研の研究者などです。つまり、輝かしい将来を抱えているわけです。そんな若者の中に、ひと回り上の年齢の人間が1人いて、そこを修了したからといってキャリアがそんなに変わるわけではない。学ぶことに対する確固たる思いがあったとしても、『これって本当に時間の使い方としていいのかな』と焦ります。海外の大学院にフルタイムMBAで留学するというのはアリだと思います。しかし、30歳を超えて“フルタイムMBA in Japan”というのは、残念ながらナシだと思いますね。相当焦ると思いますし、そこを卒業した後、どうなるかというところに対しての答えが見えない。海外ならともかく、国内にそこまでのプレゼンスを持った大学院はない。東大でも難しいと思います」(保田さん)

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