おせちの中に世相が見える、戦略が見える!それゆけ! カナモリさん(1/3 ページ)

» 2009年12月08日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年12月4日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


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 おせちブームである。景気の低迷によって、「年末年始の旅行は控えるけど、せめてお家でちょっと豪華なおせちを食べましょうね」ってわけで、2000年ごろからブームに火が付いた。金融ショックの余波が続く今年はさらにそれが加速、家族と自宅で過ごす人が多いとみられ、百貨店各社はしのぎを削る熱い戦いを繰り広げている。

 2009年11月30日の産経新聞朝刊記事では紀文の調査を紹介しており、20代の89%が正月を「子供に伝承したい日本文化」と感じているという一方で、おせちを自宅で用意する割合は36%(全体59%)と若い世代ほどおせちを外で買う傾向が顕著になっている。

 まずは、価格戦略(Price)に注目してみよう。おせちも景気動向の影響は否めない。そのため、「1万円おせち」などのロープライス路線の拡充は各社とも意識しているところだろう。しかし、松・竹・梅でついつい、「竹」を選んでしまう日本人の性格。金が余っている団塊世代退職組のために、高価格帯も手を抜けないし、百貨店によっては10万円の強気商品を展開している例もある。ただし、ボリュームゾーンはあくまで中価格帯。そこへどううまく誘導するか。そして手堅く低価格帯も展開するというのが大雑把な印象である。

 2009年11月7日の読売新聞朝刊記事によると、売れ筋は2〜3万円の商品といい、そごうと西武は2万1000円までの商品を昨年より10点増やして68点に、東急百貨店も2万円台を昨年より2割多い約80点に充実という。

 では、そのおせちはどのような製品戦略(Product)がとられているのだろうか。記事の中では、「お値打ち」「組み合わせ自由」「ヘルシー」などのキーワードがあがっている。

 今年気になるのは、「おひとりさまおせち」を展開している百貨店が目につくことだ。少子高齢化に晩婚化、非婚化が進んで「正月に1人でおせち」に対応することはもちろん、「個食化志向」への配慮であろう。子ども用と称して「キャラクターおせち」があったり、若い人向けに「若手料理研究家プロデュースおせち」があったりと、おせちはそれぞれ1人1重になっていくのではないか、と思える様相である。筆者としては、ギャル対応のスワロフスキー仕様、デコデコお重が見てみたかった……。

 定番の「老舗のおせち」がしっかりと存在感を示している一方、それぞれの郷土の味が楽しめるタイプも充実を図っているようである。「おせち市場」はまだまだ、市場のパイが拡大するであろう成長期なので、商品そのものの工夫のしがいはあり、例年にも増して多様化しているようだ。

 ただし、おせちには制約条件がある。それは販売チャネル(Place)である。生おせちは「地域限定」にして数量の確保と、保存性と、運送にかけるコストを減らさなければならない。「全国どこでもお届け」にしてしまっては安全性の問題や、味の劣化、運搬中に盛りつけが崩れるというようなリスクが生じる。提供する料亭や仕出しは嫌がるだろうし、百貨店としても責任が持てない。そもそも食の好みが地域でまったく異なる。

 考えてみれば、地域に応じた商品の提供は本来あるべき姿である。今までは多くの商品が「売る側の都合」で全国一律で行われていたのである。地域性のあるおせちは、見ていても楽しく、商品提供の本来あるべき姿を示しているとも言えるだろう。

 各社がどのようなプロモーション(Promotion)を展開しているのかは、最後にWebサイトで見ていくとして、それを見る前に、どんなテーマ性が設定されているのか、その切り口をざっくり見ておこう。テーマ性とは即ちポジショニング(Positioning)であり、各社の戦略の要だ。

 しかし、「食の達人が仕立てたおせち」「いまどきおせち」「なつかしおせち」「三都雅おせち」「料理研究家のおせち」「ヘルシー精進おせち」「タイガースおせち」「おばあちゃんの味おせち」……ホンッッッッッッッッッッとに種類が多くうまくカテゴライズできないのである。大学院の学生に、「ちゃんとポジショニングマップを書いてみろ」と言っている身としては情けないが、とにかく乱立状態なのである。

 消費者ニーズの多様化に対応しているというよりは、まだまだ手探りで百貨店のプランナーたちがハァハァゼェゼエと息を切らしながら手探りをしているという状態が目に浮かぶ。デパ地下商品としてはえらく高単価であるし、成長市場なので手は抜けない。

 この熱い市場に百貨店はもちろん、コンビニエンスストア、スーパーなどが入り乱れて、バイヤー、マーケターたちがチエの絞り合いをしているのだ。う〜ん、これを見逃さない手はないだろう。週末暇があったら、各店舗をじっくりと回り、それぞれの展開を眺めるだけでも飽きない。お金のかからない、大人の遊びゴコロだ(独自のポジショニングマップが書けたらぜひ送ってほしい)。

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