おせちの中に世相が見える、戦略が見える!それゆけ! カナモリさん(3/3 ページ)

» 2009年12月08日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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京王

 「多摩地区産の食材にこだわり」などと、ものすごく限定された地域のおせちで特徴を出している。もう1つのポイントは、京王プラザホテルと二段構えの展開。「ホテルのシェフが作るおせち」という強力なカードをしっかり使っている。生かすべき強みを有効に使うお手本だ。

小田急

 3大かにおせち「北海雅膳」が出色。おせち→お正月→家族が集まる→宴会→「かにまつり!」という文脈が面白い。ほかの百貨店がおせちと、お正月宴会料理のページを分ける中、小田急は一発で鍋パーティーとおせちの両方を楽しめる画期的なセットを開発した。顧客の行動をきちんと考えた結果たどり着いた秀逸な商品である。

東急

 品数はものすごく多い。が、Webサイトで買えないだけでなく、やたら見にくい。そごう・西武と同等かそれ以上に損している気がするが……。ネットを使う人はターゲットに設定していないのだろうか。

近鉄

 商品以上にWebサイトの構成が秀逸。人数・価格・味の嗜好(しこう)と、ニーズに沿った選び方がスムーズに展開されている。これぞ顧客視点。さらに料理に合うオススメへのお酒への誘導も顧客にとっては気が利くサービスで、自社にはクロスセリング効果バッチリである。

天満屋

 関東・関西・中四国と、各地域の味を楽しめるおせちが展開されている。なぜ、こんなに多くの地域を揃えるのか、その意図を推測するために中国地方出身の人々にインタビューしてみた。すると、「あんまし行かないからじゃない?」と口を揃える。超保守的地域ならではの、「ちょっと冒険心」をおせちで充足させようという意図だろうか。

岩田屋

 こちらも全国の味を楽しめる展開。プロモーションとしては「おせちの現場を取材してきました!」が秀逸である。なんともドラマチックに作り手の思いが伝わってきて、「ここのおせちを食べてみたい」という気持ちになり、心揺さぶられる。写真がまた、いい。マーケターの力量が感じられ、ちょっと感動した。

リウボウ

 「しょうがつくわっち〜」とは「正月料理」の沖縄言葉らしい。さすが沖縄、おせちを食べる習慣というか、おせちそのものから説明している。しかし、最後にこのWebサイトで勉強になったことがいくつもある。「そもそも、おせちは正月だけの食べ物ではなかった」とか、「おせちを重箱に詰めたのはデパートが始め」とか。しかし、おせちのバリエーションが劇的に少ないのは需要がないからだろう。

 以上、ランダムに沖縄までざーっとさらってみたが、各社各様の展開であり、温度差もある。しかし、成長市場で覇権を競い合うさまも垣間見える。しかし、やはり消費者のニーズをいかにおさえるか、顧客行動をどのように設計するかがキモであることは間違いない。

 おっと、Webサイトを見ると、すでに随分と完売の商品も目についた。

 「ご予約はお早めに!」

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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