朝日新聞の“名物記者”は、こんな人たちと戦ってきた(3/4 ページ)

» 2009年12月15日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

 ジャーナリズムが果たしてきた役割はいくつもあるが、最近のメディアは少し弱ってきているのではないだろうか。例えば安倍総理が参議院選挙で敗北したとき、その日に彼は「自分は総理を続ける。なぜなら(今回の選挙は)衆議院選挙ではなく、政権選択の選挙ではないからだ」と言った。自民党は歴史的大敗をしたのにもかかわらず、安倍総理は居座ってしまったのだ。

 これに対し、朝日新聞は「選挙結果は国民の審判が下った」と書いたが、全国紙で安倍総理退陣を明確に求めたのは朝日新聞のみ。私はジャーナリズムの業界にいる者として、非常に恥ずかしかった。テレビで唯一、安倍総理に退陣を迫ったのは、亡くなられた筑紫哲也さんだけ。そのとき筑紫さんはガンにおかされていたが、彼は病院から電話で退陣を求めたのだ。

 一方、日ごろは言いたい放題言っている田原総一朗さんは、なぜか安倍総理に辞任を迫らなかった。田原さんだけに限らず、なぜジャーナリズムは一国の総理大臣に退陣を求めなかったのだろうか。新聞は言論機関の役割が大きいはずなのに、この件をめぐって「ずいぶんその力が弱ってきているなあ」と感じた。

 しかし、しばらくして安倍総理は退陣した。病気という理由だったが、かなりの重圧があったからではないだろうか。その重圧というのはジャーナリズムではなく、国民からの方が強かった。ただ「ジャーナリズムは弱くなった」といわれながらも、新聞社は安倍総理に“かみつき”続けた。安倍総理を退陣に追い込むことに、「多少は貢献ができたかなあ」とも思っている。

論説主幹を務めた日々

闘う社説 朝日新聞論説委員室 2000日の記録(著・若宮啓文氏、講談社)

 私は論説主幹を5年7カ月務めたが、その間いろいろなことがあった。例えばイラク戦争、靖国参拝、北朝鮮の拉致問題など――。朝日新聞は「イラク戦争をやるな」と訴えたほか、靖国参拝についても批判し続けたが、小泉総理は馬の耳に念仏状態で「イラク戦争支持、靖国神社参拝」を行った。そしてこのことに対し、多くの世論がなびいてしまった。

 イラク戦争についていえば、明確に反対したのは全国紙でいえば朝日新聞と毎日新聞。一方の読売新聞と産経新聞はブッシュ支持だった。バクダットが陥落したときに歓喜の社説を掲載したのは読売新聞と産経新聞で、「我々の正しさが証明された」といった表現まで使っていた。そういった状況の中で靖国参拝が行われたりしたが、そのとき“右の方”は朝日新聞を強く批判した。代表的な批判といえば「朝日新聞はどこの国の新聞なんだ?」というもの。例えば北朝鮮の拉致問題について、北朝鮮を擁護するわけではないが、政府に対し「力づくで臨め」と訴えたところで、この問題を解決することは難しいと思ったからだ。

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