中川 ポップカルチャー外交の基礎には「パブリックディプロマシー(対市民外交)」「ソフトパワー」という考え方があります。パブリックディプロマシーというのは、「政府だけを外交の相手とするのではなくて、一般市民も外交の直接の対象としてアプローチしていったらいいのではないか」という英国で始まった考え方です。そして、長期的に考えた時の有望な働きかけの対象として、青少年層が非常に重要だということです。
一般市民に対する働きかけをする時に重要だと言われているのがソフトパワーなのですが、「ソフトパワーって何なの?」というと文化や価値観といったものです。ハーバードの先生なんかによると、「強制や報酬ではなく、魅力によって望む結果を得る能力だ」とされています。憧れや魅力といったものがソフトパワーの源泉なんですね。
冒頭で説明したように今、世界中の若い人たちが日本の漫画やアニメに対して強い憧れや期待、好意を持っています。そういう人たちが漫画やアニメだけではなくて、日本のほかの文化、日本人、日本に対しても敬意や信頼を持つようになるという事態が起こるとしたら、日本にはものすごいソフトパワーがあることになる。日本は世界の中でソフトパワー大国だと誇れるではないか、ということです。
中川 日本のソフトパワーを実際の外交にどう生かしているかということですが、いくつかの施策を具体的にやってきています。
簡単にご説明すると、まず「国際漫画賞」です。海外で日本スタイルの漫画を普及させるために、外国人の漫画家を表彰しようということで始まったものです。“日本スタイルの漫画”というのは4コマ漫画や風刺漫画というよりも、むしろストーリー性のある漫画と考えています。
これまで3回やってきて気付いたことというのは、アジアや欧米といった漫画の先進国だけではなくて、中東やアフリカといったところからも日本の漫画に憧れる多くの若手の漫画家が応募してきているということです。第3回は世界55カ国から応募がありました。
ただ、申し訳ないのですが、最優秀賞をとっても賞金は出ません(笑)。その代わり、受賞者は日本に来て、彼らが子どものころから憧れている大家と言われる漫画家に会えるといったことが国際漫画賞のウリです。
中川 「アニメ文化大使」というものもやっています。実際に何をやっているかというと、映画『ドラえもん のび太の恐竜2006』を上映しています。過去1年間、60カ国で105回上映しました。1本の映画を特定の期間、集中的に世界中で上映するというのは初めての試みだと思っています。
映画を上映することはよくある文化事業で、アニメについても日本の大使館や総領事館でよく上映しています。ただ、「アニメ文化大使事業が今までの映画上映事業と何が違うのか」ということなのですが、それは誰が見ても「これが日本だよね」「これが日本のキャラクターだよね」と言えるドラえもんに大使になってもらっているということです。また、ドラえもんの映画を見てもらって、「ああ面白かった」「楽しかった」だけではなくて、そこから日本のことをもっと知ってもらいたい、好きになってもらいたいという明確な意図を持って、上映事業をやっているということです。
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