“コシヒカリ”から“みどり豊”へ、農業をやりたくなるお米郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)

» 2010年01月28日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]
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主食をぞんざいに扱っていいのか?

 先祖代々2000年もの間、稲作をしてきた農家。日本人の主食、食糧の根本が大きく変わろうとしている。効率重視の大規模農業が良しとされ、小規模農家は悪という論理。本当にそうなのか? 大規模化が容易な北海道ならいざしらず、段々畑の集落で規模を追う効率化が正しいとは言えないだろう。戦後の食糧行政で需給バランスが崩れ、価格が下がり、採算が取れず、作る意欲が下がり、“ぞんざいになった”のが稲作農家だ。そう坂嵜さんは語る。

坂嵜潮さん

 「主食をぞんざいに扱っていいのでしょうか? 米どころの滋賀県は耕地面積の92%が水田です。それを担うのは、平日に大阪や京都で働く兼業農家。彼らはもうけなくてもいいから先祖代々の田んぼを守りたい、というボランティア精神なんです。ありがたい存在ですよ。これを近代化の敵だ、やめろと言えますか?」

 先頃、大沢町の水田60ヘクタールを守る農家30人ほどの集会があった。テーマは「10年後の集落の農地管理はどうなるのか?」。ほとんどが兼業農家で60〜70代が中心。うち10戸は後継者が引継いで、農業を続けられるだろうと挙手した。

 「60ヘクタールを10人で割るとひとり5〜6ヘクタール。この規模はぴったりです」

 5ヘクタールとは、大きな設備投資はいらず、誰も雇わずに管理が可能、それでいて農業で暮らせる収入が得られるライン。『現代農業2010年1月号』(農文協発行)にも「大規模稲作は効率的な経営ではない」という記事が掲載されている。定年後の60歳から始めても、75歳まで15年働ける。不況でリストラがキツく、新卒さえ就職できない世の中。Uターン組ならずとも社会とのつながりを持ちながら、安全・新鮮・美味の食生活が出来る兼業農家が“憧れのライフスタイル”になるのは間近だという。

 「人口の増大で近いうちにエネルギーも作物も需給が逼迫(ひっぱく)します。今の価格でパンが作れない時代がくる。その時に主食の米がしっかりしていれば、米粉でパンもお菓子も作れます」

お米が育てられる商品になる時代へ

 「農家が喜ぶのは“おいしかったよ”という声です」

 戦後長らく需給も価格も調整されてきた米。2004年の食糧法改正・自由化により直販もできるようになった。「もうかるから(コシヒカリを)作る」という“お金の喜び”から、「消費者の“おいしい”がうれしい」という“作る喜び”への転換。何十年かぶりにお米が“育てられる商品”になる。

 それに挑戦する大沢町の作り手は、2009年の3人から倍増しそうだ。すでに“無農薬”や“不耕起(土地を耕さずに栽培)”でみどり豊を作りたいという人が現れている。田んぼを守るボランティアだけではなく、“喜ばれ”かつ“もうかる”可能性があるからだ。全国的な知名度のブランド米品種がない滋賀県にとっても挑戦する価値がある。

 2009年は種籾を無償で提供、食味評価用に米を全量買い取った。それはなぜだろうか? 坂嵜さんの名刺の肩書きには“プランツキッズ”とある。「いつまでも子どもの心を持って、人や産地に新しい価値を吹き込み、農家のお役に立ちたい」、そんな彼の姿を見て、私も農業がしたくなった。

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