トヨタのリコール問題が示唆する日本製造業の未来藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年02月08日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 たとえ金融で外国に主導権を取られようとも、たとえ外交の舞台で華々しく活躍できなくても、日本が誇るべきもの。それは「モノづくり」である。そう主張する人は少なくない。私もそう思う、というより思いたい。

 そして、日本の製造業の象徴はトヨタであった。燃費が良くて故障が少なく、安全で性能もいい車、それがトヨタを始めとする日本車の特徴であった。そのトヨタが昨年来、前代未聞のリコールで苦境に立っている。

 なぜこんなことになったのか。ある大学教授はこんなことを語っていた。「トヨタがGMを抜いたと言われたあたりから、こんなことが起こるのは時間の問題だと思っていた」というのである。要するに、切磋琢磨していく緊張感が薄れると同時に、組織が巨大化して官僚的になるにしたがって情報の流れが悪くなる。手っ取り早く言えば「企業の老化」ということであろうし、「企業の寿命」ということなのかもしれない。

 しかし、トヨタの「老化現象」は一企業の問題にとどまらない。なぜなら日本を支えてきたのは自動車産業だからである。電機やエレクトロニクスといった日本が強かった産業分野は次々に韓国や中国に抜かれている。唯一、自動車だけはトヨタやホンダといった世界有数の自動車メーカーが活躍し、かつ温暖化ガス問題で注目されたハイブリッド車は、日本勢のほぼ独壇場となってきた。その中心的存在がトヨタであった。もしトヨタなかりせば、1990年代の日本は大幅なマイナス成長となったであろうと指摘する向きもある。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.