トヨタのリコール問題が示唆する日本製造業の未来藤田正美の時事日想(2/2 ページ)

» 2010年02月08日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]
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フィンランドのビジョン

 2009年、フィンランドに取材に行ったとき、ヘルシンキ市の経済部長が言った言葉が強く印象に残っている。21世紀のフィンランドのビジョンを研究しているが、そのときのキーワードは「ポスト・ノキア」だと言ったのである。もちろん彼は「フィンランドにとってノキアが必要ないという意味ではない」と付け加えた。しかし、世界第1位の携帯電話メーカーであるノキアだけでは21世紀のフィンランドを支えられないという危機感を持っていることはよく分かった。

 ひるがえって、日本で経済産業省が21世紀の日本のビジョンを研究する時、「ポスト・トヨタ」と言うだろうか。おそらくそんなことは考えもしないだろう。実はそれがトヨタがこければ日本がこけるような構造になってしまった大きな理由であると思う。

 フィンランドぐらいの規模なら(国土面積こそ日本と同じぐらいだが、人口はわずか520万人ほどである)、世界的な産業や企業が1つでも何とか支えられるだろう。しかし、日本ぐらいの規模、世界第2位の経済大国であれば、自動車産業だけが国の支えでいいはずはない。もちろんカメラなどの精密産業も世界トップであるが、産業としての規模は残念ながら自動車には遠くおよばない。

 日本政府は、電機やエレクトロニクスがずるずると後退し始めた時に、21世紀の日本を考えるに当たって、相当の危機感を持つべきだったと思う。それを持たないままに、いたずらに公共事業に大量の税金を注ぎ込み、そして円安に導く(輸出産業を支援する)ことに汲々(きゅうきゅう)としていたように見える。

 その結果、円安バブル(21世紀に入ってからの日本の成長をこう呼ぶエコノミストも多い)で一時潤ったものの、今ではすっかり成長力を失ってしまったようだ。そして世界からも日本はそう思われている。日本の格付けは引き下げられる方向にあるというだけでなく、企業は日本市場から撤退していく。2009年の東京モーターショーを見た人はそれを実感したはずだ。出品した海外メーカーはわずか3社。それもいわゆる大手メーカーはゼロである。韓国の現代自動車に至っては、直前にキャンセル料を払ってまで出品を取りやめた。海外のマスコミも次々と言っていいぐらい東京支局を閉鎖し、中国にシフトしているのである。

 海外メディアのWebサイトをチェックしているとChinaという言葉がない日はほとんどないが、Japanという言葉はめっきり出現する頻度が落ちてきた。英エコノミスト誌で「The World in 2010」という2010年を予測した別冊があるが、その中で、中国の記事が4本あるのに対し、日本の記事は1本だけである。まさかこの記事の本数だけで日本の存在感がめっきり落ちたことの証拠などと言うつもりはないが、象徴的であることは間違いない。

 こういった意味でも、2009年、鳩山首相が温暖化ガス排出量を1990年比25%削減するとブチ上げたのは「快挙」だったと思う。そうすることで世界の主導権を握ることも可能になるからである。いたずらに競争上不利になるなどと非難せずに、いかにして環境で日本が存在感を高めるかを真剣に考えるほうがましというものだ。そういったことが、環境ビジネスで日本が先頭を走るチャンスをもたらすかもしれないからである。

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