線路の響きが多少気になるものの、北陸の車内は意外と静かだ。これは北陸が機関車が客車を引っ張る方式だから。電車にありがちなモーターやコンプレッサーの音がない。今回は下段なので音が大きいが、上段はもっと静かで、窓が天井に回り込んで星空も見える。混んでいる時期はチケットがあるだけでも御の字だけど、もし選べるなら上段がオススメ。床の半分が階段になるけれど、寝たり座ったりするぶんには問題ない。
金沢を22時18分に発車すると、次は22時29分に津幡、22時53分に高岡、23時08分に富山に停車する。北陸本線の夜の車窓はとても暗くて、小さな駅を通過するときの、ささやかな灯りが旅情をそそる。停車駅付近の夜景がまぶしく感じられるだろう。そんな風景を眺めても楽しいし、暗い寝台で、レールの響きを聞きながらの読書もいい。誰にも邪魔されない自分だけの時間である。しかし、あえて言おう。早く寝なさい。
鉄道ファンならすべての客車を歩いて検分したい。先頭車両に行けば機関車の顔も眺められる。長岡駅では機関車を交換する場面も見られる。その気持ちは分かるが、寝台車に乗って寝ないなんて、食堂車でご飯を食べないくらいもったいない。横になって眠れることこそ寝台の真の価値だから、ここはさっさと眠ったほうがいい。どうせ車窓は真っ暗だ。
そのかわり早起きはオススメ。もし目覚めた時刻が夜明け間際だったら、そのまま起きて明るくなっていく景色を眺めよう。夜行列車の良さは、始発列車前の夜明けの車窓を楽しめること。青いフィルターがかかり、人の気配のない建物だけの景色は、まるで実物大の模型のようでもある。そのうちに国道に長距離トラックが走り、町には新聞バイクが走り出す。明るくなるに連れて、散歩に出かける老人、犬を連れている人、集団登校の小学生や園児が現れる。そんなふうに少しずつ朝の鼓動が高まっていく。通過する駅にも人影が増えて、通勤時間帯に移っていく。
そんな人々を動くベッドから眺めていると、窓ガラス一枚を境目に、時間の流れも違う気がする。あちらは日常、こちらは旅という別世界。ちょっとした優越感だ。もっとも、こちらも終着駅に着いたら日常が始まってしまう。上野行き寝台特急の朝。車窓には大宮の鉄道博物館や尾久の車両基地が現れる。鉄道ファンには楽しい風景だ。
上野到着は06時19分。会社や学校の開始時刻には十分間に合う。今朝まで旅をしていたことが嘘のように、いつもと同じ一日を始められるのだ。
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