電池交換と簡単なクリーニングだけで復活したFUJI「TW-3」。フィルムを入れて早速実写である。ワイド端のほうは、結構使い出がある。35ミリ換算で32ミリは、今でこそ標準に近いが、昔のハーフでは広角のほうである。また最短で50センチまで寄れるのも、まあまあ珍しい。
一度テスト撮影したのだが、コマの下側に光漏れが写っている。構造上光が入りそうなところといえば、もう裏ブタのフィルム確認窓しか考えられない。裏側のモルトが腐食していたので張り直したのだが、どうもモルトの高さが足りなかったらしい。モルトも実は高さが3種類ぐらいあって、筆者は1.5ミリのものを使っている。これまでモルトの高さがそれほどシビアな問題になるケースは無かったので、全部これで済ませていたのだが、遮蔽(しゃへい)が足りないようだ。
かといって、これだけのためにまたモルトを買うのもしゃくなので、黒いビニールテープで確認窓を裏側からふさいでしまった。本気でこのカメラしかないのなら話は別だが、どうせ撮影する時にしかフィルムを入れないし、入れっぱなしで放置することもないので、今となってはそれほどの必要性はない。
再びフィルムを入れ直して、撮影である。実際に撮ってみると、ワイドモードはなかなか使いでがある画角なのだが、ファインダーがすごく小さいので、撮影中の喜びがあまりない。フォーカス合わせも実質不要だし、スナップをパチパチ撮るカメラという位置付けなのだろう。
さらにワイド側では、いちいちフラッシュがポップアップするのが正直邪魔だ。昼間でも光量が足りないと、自動的にフラッシュ撮影になるのだが、いかんせん昔のフラッシュ撮影なので、昼間でもまるで夜撮影したみたいになってしまう。こういうのを見ると、今のデジカメはやはり進化しているのだなと思う。
絵的には、近景はシャープでよく写る。やや明るめに写る傾向はあるが、ハーフでこれだけ撮れれば十分だろう。一方、遠景ではちょっと解像感の甘さが気になる。またレンズフードがないこともあって逆光には弱く、ハレーションが厳しい。まあ本当に小さなレンズで撮影しているので、画質的にはそれほど期待できない。
撮影する時はレンズカバーをぐるりと回すわけだが、レンズ穴にはカバーガラスがはまっている。このカバーガラス自体はいつも露出しているわけだから、そこにホコリが溜まりやすい。カバーガラスなどいらないんじゃないかと思ったのだが、よく観察すると、このカバーガラスのすぐ後ろ、すなわちすべてのレンズよりも前にシャッターがある。
こういう構造も、やっぱりレンズシャッターと呼ぶのだろうか。このカバーガラスがないと、撮影時にはシャッター機構がむき出しになってしまうので、やはり必要なのだろう。
反対のテレ側は、ちょっと使いづらい。というのも、最短で4メートルも離れなければならないのでテレマクロ的には使えないし、97ミリという中途半端な画角なので、望遠という魅力もあんまりない。しかも解像感があまりないので、微妙に用途に困るのである。
さらに逆光に弱いという特徴はワイド側と同じなので、樹木などを見上げた空抜けのショットがことごとく破たんしてしまうのが残念だ。
レンズ部の下にあるBLCというボタンは、逆光補正が必要なときに使うようだ。ただ、押したから何か表示が出るわけでもないので、おそらく押しっぱなしにして使うボタンなのだろう。
その隣のTV MODEボタンは、テレビ画面を再撮するときに、シャッタースピードを30分の1秒に固定するためのものだそうである。今どきフィルムでテレビ画面を再撮しようとは思わないが、これらのボタンを全部押し続けながら撮影することになったら、指が何本あっても足りない気がする。
構造的にはかなり革新的だが、それは光学部分を極端にシンプルにすることで実現したのだと言えるだろう。そしてこのカメラの翌年、「写ルンです」がデビューすることになる。実際に写ルンですが売れ始めたのは発売から数年経ってからのことなのだが、TW-3でのトライアルがこれにも反映されたに違いない。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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