「走りながらマーケティングする」――データに支えられたソーシャルゲーム運営野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(1/3 ページ)

» 2010年04月16日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]

「野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン」とは?

ゲームは単なる娯楽という1ジャンルを超えて、今や私たちの生活全般に広がりつつある。このコラムでは、ソーシャルゲームや携帯電話のゲームアプリなど、すそ野が広がりつつあるゲームコンテンツのビジネスモデルについて、学術的な背景をもとに解説していく。


 ソーシャルゲーム市場が本格的に拡大しつつある中、クリエイターとベンチャーを応援しようという動きが活性化している。ファンドにコンテスト、技術サポートにマネタイズ、世界展開を視野に入れた支援体制も出てきている。しかし、筆者は「ビジネスチャンスの拡大が期待される一方、グローバル競争で日本製ゲームのプレゼンスが落ちていかないか」という危機感も感じている。

 現在のソーシャルゲームを第1世代とするならば、その勝者はいわゆる“農園系ゲーム”にある。Facebookでは「FarmVille」をリリースした米国Zynga、mixiでNo.1となった「サンシャイン牧場」の中国Rekooだ。だが、日本のゲーマーから見ると、どちらも「ゲームとはいえない代物」という感想だろう。

 しかし、開発者がゲームとしての完成度を考えてしまうと、出遅れてしまうはずだ。ソーシャルゲームの特徴に徹底的にフォーカスしたZynga、安い人件費に支えられ、とにかく素早いリリースを心がけている中国ベンチャー。これらに日本企業はどう立ち向かえばよいのだろうか。

FarmVille公式Webサイト

 まず大切なのは、ファンド創設など、優秀な技術・アイデア・人材を集めるための、市場全体の仕組み作りである。それに加えて、個々のソーシャルゲーム会社には、「アプリで収益をあげるビジネスモデルを構築する」という課題がある。技術やアイデアがどんなに優れていても、その創造性をビジネス路線で展開していく方法がなければ、結果はついてこない。

 そんな中、ソーシャルゲーム特有の経営について、おぼろげながらも1つの解が見え始めている。それは、ソーシャルゲームの先駆者たちが実践する運営方法、ユーザー行動を計測してゲーム設計にフィードバックさせる“データ・アプローチ”である。

今、話題となっているデータ・アプローチ

 3月18日、GMOインターネットの「アプリやろうぜ!」のキックオフミーティングが盛大に行われた。ソーシャルゲーム・アプリの開発資金や開発環境の提供、技術サポートなどを行う総額3億円のプロジェクトである。先駆的ソーシャルゲーム会社による講演が行われたが、幾度となく聞かれたのが「開発よりも運営にリソースを割く重要性」であった。

 運営というと、苦情に対応するカスタマーサポートや、イベント企画などのプロモーションを思い浮かべる人が多いと思う。しかしここでいう運営は、より積極的なアプローチを意図している。ユーザー動向をウオッチして改善点を見出していく、仮説検証スタイルである。ユーザーにとってどこがボトルネックになっているのかをいち早く知り、リアルタイムでアプリを改善していく。その積み上げによる精度の高さが、マネタイズにつながるのだ。

 くしくも同月にサンフランシスコで行われたGDC(Game Developers Conference)においても、同様の議論が行われた。FarmVilleの開発に携わった、Zynga社のプロダクト開発副社長マーク・スカッグス氏は、「日々のプレイヤーの行動を計測し、そのデータを分析して継続的にアプリを改善することが、成功するソーシャルゲームにつながる(外部リンク)」と述べた。

 ゲーム開発というと、エッジなクリエイターの感性や経験によるところが大きかったが、ソーシャルゲームではマーケット寄りのデータ・アプローチが必要と言われる。ソーシャルゲームはリリースすれば終わりではなく、そこから長い間プレイしてもらって課金をしてもらうまで、ユーザーを見続けなければならない。つまり、コンテンツ業というよりもサービス業に近いビジネスと言える。

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