要は「通常はあり得ないだろう」と思えるようなトラブルを想定することです。簡単なことのように聞こえるかもしれませんが、通常あり得ないようなトラブルは、自分にとっての損害も大きく、こうした自分にとって望ましくない事態は考えるだけでも恐ろしいので、人は生理的に「そうしたことは、自分には起こらない」と思考停止しがちです。ただし、それはあくまで願望であって、事実ではありません。「そうしたことは、自分には起こらない」というのは何の保証もないことです。
「担当者なら、何でそうした事態を想定しておかないんだ!」
経営者がこうした事態でよく逃げを打つ言葉です。確かに、担当者にはこうした事態を想定しておく責任はあります。しかし、担当者にそうした責任があることを理解させ、その責任を果たさせる責任が経営者にあります。つまり、担当者がやるべきことができなかった責任は、究極的には経営者にあるのです。
“究極的に”と言うと、難しいことを要求しているように感じるかもしれませんが、何のことはありません。「例えば、この部品のサプライヤのラインがストップしたら、ウチの会社はどうなるんだい?」となにげなく聞けば、自社のサプライリスクマネジメントがどのあたりにあるのか、すぐ把握できることです。この簡単なひと言すら発せられない経営者は、やはり経営者の責任を果たしていないと言えるでしょう。
あるカラオケチェーンの経営者は新型インフルエルザが取り沙汰された時、ある地域の店舗で感染者が出て、それらの店舗を長期開けられなくなる事態を想定して、数千万円を払ってそれに対応した保険に加入しました。
あらゆるリスクに対して保険に入ることは決して勧めませんし、その件に弊社が関わったわけではありませんので、この経営者の判断が正しいか否かは分かりません。ただ、ここでお伝えしたいのは、普通であれば、「新型インフルエンザ、怖いな、やだな。大変なことになったな」で終わってしまうところを、自分の仕事、オペレーションに最悪どのような影響が出るのか、手を打つべきか否かをすぐに考えるこの経営者のすごさであり、その姿勢です。この経営者のカラオケチェーンが、カラオケ市場の激しい競争、リーマンショック後の消費不振にも関わらず業績を伸ばしているのは、こうした姿勢と無関係ではないように思えます。
「想定外のトラブルを想定する」、それがリスクマネジメントの第一歩です。(中ノ森清訓)
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