“ボツ確実”でも取材せよ――不況下のマスコミ界でちょっといい話相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年05月27日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者 宮沢賢一郎 誤認』(双葉文庫)、『誤認 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。


 不況が長引く中、広告収入が激減した反動でテレビ、新聞各社の収益構造が悪化の一途をたどっているのは周知の通り。こうした中、「スポンサー様の意にそぐわない原稿はボツ」との風潮がマスコミ界を覆っているのだが、先日「“ボツ確実”でも取材を続けろ」というちょっと変わった話に接した。骨のある報道マンが減り、物分かりの良いサラリーマン記者が幅を利かす中、筆者が仕入れた“ちょっといい話”をご紹介する。

批判コメントは絶対ダメ

 数カ月前のある日のこと。筆者は某民放キー局のスタッフルームに呼ばれた。同局がスタートさせる新しい報道系の番組にコメンテーターとして出演してほしい、との要請を受けていたからだ。

 同局では、番組総責任者であるプロデューサーや現場を取り仕切るディレクターと面談した。局側による事前の適正検査というわけだ。席上、筆者が得意とする経済・産業系の手持ちのネタをいくつか披露したところ、番組スタッフの顔が一斉に青くなった。

 この際、筆者は某大手自動車会社や某大手流通企業が抱える諸問題を指摘したのだが、「絶対にその種のネタは使えない」「編成や営業からのクレーム必至」などと“ドン引き”されてしまったのだ。筆者が槍玉に挙げた2つの大企業は、当該番組のスポンサーでないにも関わらず、である。

 筆者が指摘した諸問題とは、一般メディアがほとんど伝えない大企業の業績面でのカラクリや、矛盾点など。筆者としては、特段危ない話をしたつもりはないのだが、同局のスタッフには刺激が強すぎたらしい。

 「経済ジャーナリスト」の肩書きで、筆者はさまざまな媒体で原稿を書いている。が、ここ2〜3年の間、「この批判記事、もう少しトーンを落としてもらえないか」などと、スポンサーに配慮するよう暗にプレッシャーをかけられたことは幾度となくあった。しかし、冒頭の民放局のように、打ち合わせ段階でダメ出しを食らったのは初めてだった。

 当然、筆者の番組コメンテーターの話は白紙となり、同局で「危険人物」のレッテルを貼られたのは言うまでもない。

 もちろん、筆者だけでなく、報道の現場で働く多くの記者がこのような“圧力”を日々肌で感じている。こうした現場記者に対する圧力が報道の質を低下させ、世間からの批判を浴びる一因になっていると筆者はみる。

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