ある編集者は言う。「ライターは下請け、著者はアホでも著者様」と吉田典史の時事日想(2/4 ページ)

» 2010年06月25日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 彼が仕事を受けた条件は、初版が7000部、定価が1300円前後。印税率は彼が3%、経営者が7%。印税だけで、彼は27万円前後を受け取る。これとは別に、支払われる原稿料は50万円(税込)。合計77万円ほどになるが、ここから源泉徴収で10%引かれ、残りは66万円。この額が本の発行日の翌月末に振り込まれる。

 しかし問題は、次々と起きた。まず、取材を始めることができない。編集者と経営者の約束では「2008年秋からスタート」ということだったが、その経営者は「新卒採用を始めるので待ってほしい」と言ってきた。結局、取材が始まったのは、半年後の2009年の春。もちろん、この間、ライターに収入はない。取材がいつ始まるか分からないため、依頼があった仕事の7割ほどを断ったという。

 さらに取材日がコロコロと変わった。前日になり、経営者の秘書(総務担当)から編集者にメールが届く。そこには「2〜3週間ずらしてほしい」と書かれてあった。最終的に、1回2時間の取材を10回行ったが、そのうち取材日のドタキャンが半分ほど。度重なる取材日の変更により、彼はほかの取材の日程変更を余儀なくされた。その結果、取材先とのトラブルが発生したという。

 そして、その経営者に取材をしてみるものの、質問に答えることができなかった。構成案に沿って尋ねてみたが、1つの節(項目)につき、300〜400字ほどしか話すことができない。少なくとも2500字ほどは答えてもらわないと、原稿を書くことはできない。しかし経営者には、それが無理だった。なぜなら「社長」と名乗るものの、一族が経営してきた会社のマネジメントらしきことをしているだけだからだ。

 経営者は小さいころから甘やかされてきたので、他人から否定されることに免疫ができていないのだろう。編集者やライターが不安そうな表情を見せると、気に入らなかったようだ。そのようなとき、顔を近づけ聞き返してきたという。決まり文句は、2つ。1つは「何が言いたい!?」。もう1つは「はい〜!?」。テレビ番組やビジネス系の雑誌で笑顔を振りまくときとは、明らかに違っていたという。

 ちなみに、経営者は雑誌のインタビューを受けるときも自意識過剰だった。ライターが経営者の話したことをまとめ、それを確認のために送る。すると、経営者は取材時に話していないことを次々と盛り込み、“小説”にしてしまう。しかも、ストーリーが破たんし、段落構成もひどいものだったらしい。

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