売り上げより、「思い浮かぶこと」が大事――マクドナルドのチキン戦略(1/3 ページ)

» 2010年07月06日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 デフレに苦しむ外食業界の中、2010年3月度の全店売上高が497億2800万円と創業以来の最高記録を更新した日本マクドナルド。ビーフ商品のビッグアメリカシリーズのヒットが好調の背景となったが、同社では7月2日から「チキンバーガー ソルト&レモン」と「ジューシーチキンセレクト」をレギュラー商品として販売、「チキンバーガー オーロラ」を7月16日から8月下旬(予定)まで期間限定販売する

 マクドナルドはなぜチキン商品を強化するのか。日本マクドナルドメニュー開発部の工藤高之マネージャーとマーケティング展開部の大内めぐ美マネージャーアソシエイトにその背景を尋ねると、“ファーストチョイス”という言葉がカギとなっているようだ。

チキンバーガー ソルト&レモン(左)、チキンバーガー オーロラ(右)

チキンでも“ファーストチョイス”に

――チキンメニューを強化する背景を教えてください。

工藤 マクドナルドでは「ある分野でナンバーワンを目指す」という“ファーストチョイス”という言葉があります。ナンバーワンというのは、販売数量ではなくて、例えば「ビーフのメニューがある外食といったらマクドナルド」とお客さんが1番目に想起してくれることを目標にしています。

 2008年暮れから2010年初頭にかけて、クォーターパウンダーやビッグアメリカを発売したことで、ビーフに関しては想起率でトップになっているんですね。また、2009年はスペシャルティーコーヒーなどを発売したことで、コーヒーの想起率も上がってきています。そこで今度は、チキンでも「チキンのメニューがある外食といったらマクドナルド」と想起してもらえるよう目指しているのです。

 私たちの調査によると、チキンの想起率ではやはりケンタッキーフライドチキンさんが圧倒的にトップです。マクドナルドは2位なのですが、1位と2位のギャップがかなり大きいんです。それを一気に追いついて追い越すというのは無理なので、「ある程度の時間をかけて、チキンでの想起率ナンバーワンをとれるように」ということを目指した活動を2009年から始めました。

日本マクドナルドマーケティング展開部の大内めぐ美マネージャーアソシエイト(左)とメニュー開発部の工藤高之マネージャー(右)

――なぜチキンに注目されたのですか?

大内 2008年の自社調査では、チキンのIEO(インフォーマルな外食)市場は3920億円もあり、マクドナルドはそのうち640億円を占めているのですが、まだ伸びしろはあるだろうということです。また、チキンは日本人がタンパク源として好む素材であることも理由の1つとなりました。

――640億円も売り上げがありながら、想起率ではケンタッキーフライドチキンさんに大きく差を付けられていたのはなぜですか?

工藤 私たちが今まで、継続的にチキンの訴求をしていなかったということがあるかもしれません。これまでのマクドナルドのチキン商品はもちろん良い評価をいただいているのですが、それが「マクドナルド=チキン」というイメージにまで結びついていなかったのです。

――新商品投入でのチキン商品の売り上げ目標はどのあたりに置いていますか?

工藤 私たちは想起率に注目していて、これで売り上げをどこまで伸ばすというのは考えていないですね。

フラッグシップの条件

――チキン商品の開発はどのように進みましたか?

工藤 具体的なチキン商品の開発が始まったのは、2009年のGW明けくらいです。

 まず私たちが考えたのは、「想起率ナンバーワンになるためにはどうしたらいいのか」ということです。ビーフだとビックマックやクォーターパウンダーのようなフラッグシップ商品をお客さんがすぐに思い浮かべると思うのですが、チキンでは残念ながらそういう商品はありません。じゃあほかの国のマクドナルドでフラッグシップになるようなチキン商品を扱っていないかと思って探したのですが、世界でもそういう商品はなかったんです。「それならば日本で開発してしまおう」ということが始まりです。

 それから具体的なコンセプト作りを始めたのですが、最初に「どういうことがフラッグシップの条件なのか」を考えました。そこで出てきたのが「なじみやすくて、幅広く誰にでも食べていただけること」「新規性を持っていること」という2つの相反するアイデアでした。新規性ばかり追い求めてニッチな商品になってしまうと、好きな人は好きなのですが、大多数の人に受け入れられなくなってしまう恐れがあります。その2つをいかに両立させるかというところから、商品開発が具体的に始まりました。

 そうしたコンセプトに加えて、ボリューム感や存在感などももちろん重視して、2009年7月ころに6品ほどの試作品を作りました。そして、2つのコンセプトに合っているものということで6品まで絞り、販売時のテストで最終的にチキンバーガー ソルト&レモンとチキンバーガー オーロラの2商品に絞り込みました。

――チキン商品の開発チームは何人くらいいるのですか?

工藤 社内と取引先を合わせて、コアで定期的に動いているのは10人くらいです。案件ごとに協力してくれる人がいるので、関わっている人数はもっと多いですが。コアの10人も役割が分かれていて、実際の店舗で販売するためのオペレーションを考える人がいたり、マーケティングを考える人がいたり、リサーチをする人がいたりします。

――原田泳幸社長にはどんなことを言われましたか?

工藤 原田にもいくつか試食をしてもらって、この2商品に関しては「こういう商品がないといけないんだ」ということを言ってもらいました。原田は結構チキンが好きなので、かなりこだわるんですよね。

 どの商品も販売前に原田が必ず最終の試食をするのですが、彼はいろんな適切な意見をくれます。そこで没になる商品も過去何回もあったのですが、今回に関しては2商品とも「これでいきましょう」とゴーサインが出ました。

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