ネトゲ廃人を脱するための3カ条野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(4/4 ページ)

» 2010年07月13日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]
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ゲームビジネスに求められること

 この注意点を心がけるようになり、温和なプレイヤーに変わったと思う。最近では、携帯ゲームなどのライトなゲームもするし、楽しいと思えば課金をする。一方でゲームをまったくしない期間も結構ある。

 実生活においても「せっかく生きているのだから、できる限りやってみよう」と思えるようになった。ゲーム世界ですら「楽しいことを楽しい」と素直に思えない筆者のような人間が、複雑で辛苦のある現実世界をどうして楽しめるだろう。

 ただ、もっと深刻な状況の人にはこの3原則だけでは効かないかもしれない。中毒プレイの原因は個人によって違うだろうから、自分に合ったルールを考えてほしい。実は、家にはもっと重いゲーム廃人がいた。どうしたら現実世界に生きがいと居場所を持ってもらえるか、自分の時以上に胸を痛めた。だから、家族の気持ちも分かるし、きれいごとを言うつもりはない。

 しかし、人が言うほどゲーム世界は特別なものではなく、自分らしさを発揮する場として、現実世界と大差はない。現実世界だからといって絶対的な真実があるわけではない。同じ事実を目の当たりにしても人によって受け止め方が違い、唯一絶対の見解などはない。実際の事実がどうであるかよりも、人がどう感じどう思うかが、人間社会を動かしている。人間社会という視点からは、現実が真実で、ゲームやネット世界が偽や空虚ということにはならない。

 むしろ、自分の内面を映し出す場として現実とは違う世界を持てることが、娯楽であり癒やしとなる。ゲームの存在を否定するだけでは、また代わりの娯楽が現れるだけである。それよりも、人間と娯楽のより良い関係を考えたい。

 オンラインゲームばかりが問題視されるように見えるが、新しい娯楽には、大なり小なり同じような議論が繰り返されてきた。ヘッドフォンで音楽を聴いていると社会性がなくなる、テレビを見ているとバカになる、漫画を読んでいてはろくな大人にならない……。

 今や、ヘッドフォンで音楽を聴いていても、誰も「非社会的だ」とは言わないだろう。コンテンツの利用がこなれてきて、人々のライフスタイルとして定着したのである。生活時間を過度にとられることなく、実生活を意欲的に生きるための息抜きになるゲームがあったらよいと思う。人に優しいゲームがどんな風に実現されるのか見ていきたい。

野島美保(のじま・みほ)

成蹊大学経済学部准教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活を送る。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているフリをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。

公式Webサイト:Nojima's Web site


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