無言の妻におびえる夫――トステム、“機能”を売らない内窓CMの裏側郷好文の“うふふ”マーケティング(2/3 ページ)

» 2010年07月29日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

窓を売るインプラス

 「CMで機能をうたわないのは、半分賭けみたいなものでした」とトステム広報宣伝部の石橋和之さんは語る。

 トステムには何年も前から内窓製品があった。結露に悩む家庭で営業マンがヒントを得て開発したものだ。二重サッシとは異なり、ウチとソトとの間に空気層を作るのが内窓。夏の日差しや紫外線をカット、冷房効率をアップさせて光熱費削減、もちろん防音や結露防止の効果もある。今でこそ内窓ブームで知れ渡ったメリットだが、CMでそれらの機能を売りこむかどうか悩んだという。

 CMで何をうたうべきか? 何をうたうと売れるのか?

 石橋さんがそんな問答を同僚の庭野洋美さん(広報宣伝部)と繰り返したのは、トステムの広告では“イメージ”を売るか、“機能”を売るかということが、時代や商品によって異なっているからだ。

 CM内容が検討されていた2008年当時、トステムでは住設総合メーカーというイメージを一歩進めて、先進商品を打ち出すことによって、傘下の流通店でのブランド指名率をアップさせたいと考えていた。そこで、「トステムは本気」を伝えるために、「CAKUS(窓枠内蔵ロック)」「CAZAS(ICカードキー)」という2つの商品を投入した。

CAKUS(窓枠内蔵ロック)とCAZAS(ICカードキー)

 このときCMに起用したのが堤さんだった。「なぜ彼だったのですか?」と尋ねると、

 「トップメーカーとしての王道感からです」(石橋さん)

 自動車修理工場の社長役を演じた『ALWAYS 三丁目の夕日』では映画賞を総なめ、日航機墜落の新聞社デスク役を熱演した『クライマーズ・ハイ』では演技派俳優として圧倒的な存在感を示した。「王道を目指すなら、王道の役者を」というわけだ。だから、CMの堤さんはビシっとキメたスーツに黒シャツに黒タイと正統派の服装。流通店を集めたキックオフ大会では、堤さんの特別メッセージまで放映した。なぜなら、CMの真のターゲットは工務店や住設店だったからだ。

機能訴求広告の教訓

 この王道戦略が当たり、サッシ売り上げは急増。だが、2009年にリーマンショックが発生し、新設住宅はばったり途絶えてしまった。

 「ストック需要へシフトしようと考えました」(石橋さん)

 新設住宅がなければ、リフォームに目を向けるのが“王道”だ。だが、窓をリフォームするには、外壁をはがすだけでなく内装工事まで必要なので、コストと施工のカベから敬遠されがちだった。そこで浮上したのが、1日でリフォームできる内窓商品。ターゲットは流通店から消費者へ移り、「エンドユーザーに内窓をどうアピールするか?」が問題となった。

 ここで広報宣伝部の2人は、機能訴求広告の教訓を整理した。2004年に発売した複層窓「Duo PG(デュオピージー)」のCM。モーニング娘。を卒業した辻希美さんと加護亜依さんのデュオを起用して、結露防止や防犯、水密、耐久性などの機能をうたった。しかし、人気者を起用した上、4パターンにわたるCMで訴求したのに機能は伝わらなかった。

 対象的に2007年にINAXと共同で開発・発売した「くるりんポイ」(排水溝設置型ヘアキャッチャー)では、「排水溝構造」「うずの力」「ヘアキャッチ」など機能中心に訴求したのがウケて商品もヒット。ここから彼らが引き出した教訓とは……。

 「他社にない新しいものでエンドユーザーにウケる時は、機能を訴える方が伝わるんです」(石橋さん)

インプラスのショールーム品の前で庭野さん(左)と石橋さん(右)

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