いったいどれが自分? 「“これも自分と認めざるをえない”展」(1/4 ページ)

» 2010年08月23日 08時00分 公開
[上條桂子,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

エキサイトイズムとは?

「高い美意識と審美眼を持ち、本物を知った30代男性」に向けたライフスタイルのクオリティアップを提案する、インターネットメディアです。アート、デザイン、インテリアといった知的男性の好奇心、美意識に訴えるテーマを中心に情報発信しています。2002年11月スタート。

※この記事は、エキサイトイズムより転載しています。


 佐藤雅彦氏といえばプレイステーションのソフト「I.Q.インテリジェントキューブ」やTV番組「ピタゴラスイッチ」などでご存じの方も多いだろう。現在は東京藝術大学の教授として研究活動をしつつ、さまざまな表現活動をしている研究者でありクリエイターである。佐藤氏は、お勉強の中で出てくると、すぐに頭がこんがらがってしまいそうな数理的原理や物理法則を用いて、その美しさ、面白さを、「誰にでも」「分かりやすく」表現してくれる、希有な存在だ。

 その佐藤雅彦氏が、21_21 DESIGN SIGHTで展覧会を開くとなれば、注目する人も少なくない。2007年の森美術館・六本木クロッシングで「計算の庭」が発表され、2008年にICCで開催された「君の身体を変換してみよ」展から2年。久々の大規模展覧会である。今回のテーマは「属性」だという。なぜ、いま佐藤氏は「属性」に着目しているのか。まずは展覧会の経緯から。

 「昨年、三宅一生さんから直接オファーを受けたときにお話しした際の言葉が印象的でした。『世の中に非常に頭のいい人は多いんだけど、頭のいい人がすべて分かってしまったものを見せられても、全然面白くない。そうじゃなくて来場者がおおいなる疑問を持って帰ってもらえるような展覧会にしたい』と」

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 「本当に面白いものっていうのは、言語化される前。それを探すために表現をしていて、自分の中でも『何か分からないけれど面白いかも』というアイデアをいくつか出してみました。そこで最初に出てきたのが桐山孝司先生と一緒にやっている『指紋の池』のアイデアです」

エキサイトイズム 指紋の池

 まず最初に登場するのが、佐藤雅彦+桐山孝司による「指紋の池」である。手前のセンサー部分に自分の指を当ててしばらくすると、池(モニター)の中に自分の分身である「指紋」が浮かび上がってくる。お、出てきたと思ってその分身を見ていると、ぷるぷるっと動いてそのまま群衆の中へ指紋は消えてしまった。もう自分がどれやら区別はつかない。

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 そして、センサー部分に再び指を当てると指紋群の中から1個の指紋が泳いで自分の手元に戻ってくるのだ。普段は自分の指紋なんて、iPhoneのガラスを汚してしまったり、窓ガラスを汚してしまう、そして事件のときに証拠として使われるような悪いヤツという印象があったが、こうして示されると指紋も悪くない。

 「初めて自分の指紋に対して、愛おしいっていう表象を持ったんです。なぜ指紋じゃないとダメなのか、そのとき、テーマである『属性』が浮かびました。属性は、自分のものなのに、あんまり自分のような気がしません。例えば、スタンプ感覚で指紋を紙にペタペタ付ける、最初は自分の指紋と分かりますが、友だちのものと重なってくるともう分からなくなってしまっている。『指紋の池』では、自分の指紋が戻ってきたときに初めて自分のものだという表象が生まれる。『属性』は面白いと感じたんです」(佐藤雅彦氏)

 この展覧会のテーマは「属性に無頓着な自分、それに執着する社会」である。展覧会場にも示されているが、属性という言葉の意味をここでおさらいしておくとよいだろう。

  1. その本体が備えている固有の性質・特徴
  2. それを否定すれば事物の存在そのものも否定されてしまうような性質

「大辞林」より

 この2つの意味での「属性」を考えながら展覧会を体験してみようではないか。

エキサイトイズム 展覧会を楽しむための4つの準備

 展覧会に入る前にいくつかの準備をしなければならないらしい。「注文の多い展覧会」といっていたのはこのことか。「展覧会を楽しむための4つの準備」とある。ブースが設置されており、その中に入る。まずは、名前を登録する。次に身長体重計に乗る。ここで「いやっ」と思う人もいるかもしれないが、数値が表示されることはないので乗っておくことをおすすめする(もちろん登録しなくても展覧会は楽しめる)。次に、四角いコントローラのようなものを持ち画面に向かって星を描く。最後に箱ののぞき穴を覗く。以上で登録完了だ。いざ、展覧会場へ。

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