後玉の汚れが心配されたPetri 35 F2だが、幸いなことにレンズクリーナーによるクリーニングでかなり綺麗になった。ファインダーの窓が非常に小さく視野角も狭いが、フォーカスは二重像で合わせればいいので、それほど問題にならない。
ファインダー内をクリーニングして初めて気が付いたのだが、ちゃんとフレーミング用の枠もある。あまりにもファインダー内が汚れていたので、掃除するまで全然見えていなかったのである。ファインダーも見やすくなったことだし、さっそく撮影である。
F2という明るいレンズだが、シャッタースピードが1/500秒までしかないので、なかなか開放にはできない。ISO 100のフィルムを突っ込んで日陰で撮影してもF2.8ぐらいで、日向ではF4ぐらいまでしか開かない。
それでも描画は非常に丹念で、美しい。何よりもフォーカスがピタッと決まるのは、うれしい。
シャッターは少し重みがあり、ストロークの真ん中あたりで切れる。撮ると決心しての押し込みから実際にシャッターが切れるまでのタイミングが絶妙だ。定評のあるCOPALのシャッターが、小気味よい音を立てて風景を切り取っていく。
距離はフィート表示なので、数字的にはほとんど役に立たないが、横に飛び出したフォーカスレバーのおかげで、かなり微妙な調整も可能だ。ただし、手前2.8フィート、85センチまでしか合わないため、もう一歩寄り足りない感じがする。45ミリレンズなので、ポートレートなどには丁度いい画角だが、風景やブツ撮りでは若干狭いのは仕方がない。
デザインが現代的なので、ついつい古いカメラだということを忘れてしまうが、実際には53年前、すなわち半世紀以上前のカメラである。当然筆者が生まれる前で、これまで扱ったカメラの中では、Konica II Bと2年違い。ほぼ同期といってもいい。
それでいて現代のカメラと遜色ない操作性と描写を考えると、当時のPetriは相当に完成されたカメラであったといえる。当時から「Nikonの半額」という大衆路線のカメラであったそうだが、これだけ写れば十分だろう。しかし、全盛期の1960年代を過ぎると、うまく一眼レフの波に乗れず、低価格路線ゆえに評判を落としたそうである。質としては悪くないのに、残念な話だ。
レンズの特性としては、F4〜5.6ぐらいまで絞れば非常にかちっとした硬い描写だが、開放からF2.8ぐらいでは柔らかな優しい描写となる。いまではこのような設計はあまり評価されないだろうが、絞りで表情が大きく変わるレンズである。
正直、中古市場でもPetriはそれほど人気があるわけでもないので、ここまで綺麗に写るカメラだとは思っていなかった。おそらく後期の低価格路線にシフトしたときの評判が、人気を落とした理由かもしれない。しかし、前期のカメラに対しては、これからは見方を変えていかなければならないようである。
Petriはレンジファインダーだけでなく、一眼レフも製造していた。独自のペトリマウントで、交換レンズもほとんど流通していないため、一眼レフのメリットがあまりないが、どういう写りをするのか気になる。機会があれば、一眼レフも入手してみたいものである。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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