はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん(Twitter:@InsideCHIKIRIN)。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。
※本記事は、「Chikirinの日記」において、2005年8月16日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。
ある重厚長大メーカーが熟練技術者の不足に頭を痛めている、とニュースで報道されていました。団塊世代の定年退職が始まる中、社内の熟練技術者は50代以上ばかりで、中堅以下の技術者がまったくいない。原因は彼らが新卒だった20年前に業界全体が大不況に見舞われていたため、数年にわたり採用を抑制したから、とのことでした。
この「●年前は大不況でした。だから新卒採用をしませんでした」という話はよく聞くのですが、どう考えても合理的な判断とは思えませんよね。そもそも新人の人件費なんて微々たるものです。“今”不況だからといって、“今”採用を抑制しても、コスト削減面でのメリットは極めて限定的です。
一方、「40年後まで不況が続く」と考えていたのでない限り、「新卒採用を極端に抑制すれば、長期的には人手不足になる」と分かっていたはず。つまり、不況時に新卒採用数を抑制するというのは、「メリットが極めて小さく、ほぼ確実にデメリットのある方法」です。
反対に、多くの企業がバブル時など好景気の時に多くの新卒学生を採用しました。1980年代後半から1991年までに採用された彼らは今、“バブル世代”と言われ、給与も昇格機会も抑えられ、何かあれば最初にリストラのターゲットにされています。
原因は当時の「“今”好況だから、“今”新卒採用を増やす」という判断にあったわけですが、好況時に新入社員なんて雇ってもほとんど仕事の助けになりません。それどころか好況で人手不足なのに、新人教育のために多くのベテランの時間が食われてしまいます。さらに、好況が20〜40年続くのでない限り将来必ず人が余り、人件費コストが重くのしかかることも分かっていたはず。つまり、ここでも「短期的にほとんどメリットがなく、長期的には大きなリスクがある方策」をどの企業も選んでいるのです。
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