誰が終身雇用のコストを負担しているのか?ちきりんの“社会派”で行こう!(2/3 ページ)

» 2010年09月06日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

経営的に合理的な方策は……

 経営的に最も合理的な方策は、不況の場合はその時点で「給与が高いのに、価値のない人」を解雇することです。年功序列型の組織では、50代の人の給与は新人の4倍はあるでしょう。新人採用抑制でコストを削減しようとすると「採用数の大幅カット」が必要な場合でも、中高年の解雇ならその4分の1の人数で済みます。新卒採用を続けてもたいしたコストはかからないし、不況でみんなが暇な時期なら新人育成にも時間がかけられます。

 反対に好況で人手が足りないなら、新卒学生ではなく、中途採用で即戦力の人を雇うのが最も合理的です。40代の即戦力を雇えば好況の間にすぐに戦力になるし、彼らはその後10〜20年で定年を迎えるので、新卒学生のように“40年雇い続ける”必要もありません。どう考えてもこの方が理にかなってる、と思います。

 でも、実際には(大企業は)こういう方法はとれないのです。なぜなら日本では法的に(判例により)、社員の解雇は“そうしないと倒産する”レベルにならないとできないし、“新人採用をやめ、非正規雇用者を切ってからしか、社員の解雇はできない”とされているからです(整理解雇の四要件)。

 そして、キャリア途中の人が解雇されないこの国では、層の厚い“中高年の人材市場”が形成されていません。だから好況時に即戦力を採用したいと思っても、採用したいレベルの人が労働マーケットにいないのです。

 そうなると企業の人員計画や人員調整は、もっぱら“新卒採用市場”で行わざるをえなくなります。最初に書いたように、実際にはそんなところで調整するなんてまったく非合理的なやりかたなのに、それしか方法がないのです。

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