上杉隆×高野孟 小沢一郎はなぜ、代表選に出馬したのか(前編)(2/3 ページ)

» 2010年09月07日 08時00分 公開
[Infoseek 内憂外患編集部]
内憂外患

挙党態勢という言葉の意味

高野 この代表選で面白いのは「挙党態勢」という言葉です。みんな同じ言葉を使っているのに、小鳩側と菅・仙石側のいう挙党態勢の意味が違います。小沢側は幹事長の役職、つまりカネの割り振りをする権限をよこせ、といっている。それに菅直人はNOを出したわけです。だから立候補する、となったわけです。

上杉 9月1日以降、権力闘争になります。政治というのは所詮、権力闘争です。これまでは野党の党首争いでしたが、今回は違います。角福権力闘争の再来です。負けた方が反主流派になる。これは政治のルールでは当たり前のことです。党が割れるくらいの勢いでやるのは当たり前。堂々とやればいいのです。

 今回小沢さんが出なければいけなくなったのは、カネの問題でもあります。鳩山政権時代は、官房機密費や政党助成金など小鳩で握っていたからこそ選挙前の公認料など資金を分配できました。

 しかし、今は仙石官房長官によって官房機密費が、枝野幹事長によって政党助成金が握られてしまった。逆のことが起こったのです。2年間、小沢チルドレンは干された状態になります。そうすると小沢側の人間は少なくとも2年間、干上がってしまう。坐して死を待つよりここでこそ、いくしかない、となったわけです。

 ある意味、仙石さんと枝野さんによって締め上げて小沢グループが追い込まれた結果でしょう。小沢氏自身は特に問題はないけれど、小沢側の人間からすると死活問題です。

 小沢さんは部下や秘書が虐げられたり困った、となると義理人情の人なので、頼まれるとやるんですよね。冷酷になれない。そこが小泉さんとは違うところです。

 例えば、この前の党大会の直前、元秘書だった石川知裕さんや大久保隆規さんが逮捕されたときのこと。予定になかった党大会に出て行き、検察批判をするわけです。今回も同じで部下たちが「助けてください」ときたら、「ではなんとかしよう」となる。親分肌の人ですから、日本のためかどうか分からないけど、求められたらやってしまう傾向にありますからね。

 新人160人がいますが、2年も干されると公認料などで菅さんの方に流れるでしょう。それよりも今の方が(小沢氏側に)勢いがある、と判断したんでしょう。それに仮にここで負けても、前回の樽床さんよりも得票し、代表選で僅差になれば、負けた方を処遇しないといけない。完全に干すということはありません。完全に独裁にはなりえません。

高野 自然と挙党一致態勢になるでしょう。民主党政権は政権を取って1年、この体たらくなんだから権力闘争なんてしている場合じゃありません。全部の知恵を集めてやっても足りない、ということはみんな分かっているはずです。

上杉 野党は遠心力、与党は求心力が働きます。自民党だって、角福戦争や40日抗争をやっても結局党内は割れませんでした。与党の党内が割れることはないのです。割ったのはただ1人、小沢一郎さんだけです。

 それも、中選挙区制度からシステムが変わることを見越してからです。現在の民主党は与党であることに間違いはありません。与党が求心力を絶って分かれることはありえません。負けても2年後にまたチャンスがあるから待てばいいのです。

高野 小沢さんは覚悟の決起、ということなんでしょうけどね。小沢グループ150人で最大勢力のうえ、鳩山グループが加われば余裕で200人を超える大きな勢力といわれますが、違います。私の知っている人でも3つくらいのグループに所属していますからね。

上杉 まだ「記者クラブメディア」が55年体制の派閥として考えているから捉え方を間違えるのです。民主党の“グループ”は“派閥”とは違います。今回の代表選以降、与党民主党は派閥になるし、野党はグループになる。民主党の派閥化の踏み絵になるでしょう。

 新人は160人くらいいますが、民主党内の無党派みたいなものです。菅さんか小沢さんのどちらに付くのは直前まで分からないでしょう。彼らにとっても大きな選択です。もし間違って負け犬についてしまうと、場合によっては2年間干されるわけです。これこそ権力闘争だから、ギリギリまで推薦人にならずに様子を見て勝ち馬に乗っかるでしょう。終盤になるまで行方は分からないでしょうね。

高野 いろいろあるけど菅政権でもうちょっと頑張ってみようという世論の下地もありますからね。候補者はそこに密着しているし、後援会はどう思っているか、顔色もうかがうからオロオロ、キョロキョロします。おもしろい選挙ですね。

上杉 第三の候補が出ることもありえます。160人新人がいるということは、そこから推薦人を20〜25人出して、立ててもいいわけです。菅、小沢でガチンコの対決になるより、若手が立つことで緩衝材にする、ということもあります。人数が立つことで党分裂を避ける、ということです。そういう意味ではもう1人出るかも知れません。

高野 菅陣営の票を割るために小沢氏側が1人立てる、などいろいろな戦術があるでしょう。

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