為替報道に見る、“いんちき臭い”メディアの姿相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年10月07日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

 まして今回は6年半ぶりの介入であり、世間の注目度も高い。記者とて「とりあえず書いてしまえ」という心理が働いてしまいがちとなるのだ。

 これは1995年に超円高が進行し、史上最高値をつけた前後に取材を続けた筆者の経験でもある。政府・日銀が公式に介入を認めるときもあったが、大半はノーコメント。2010年9月と同様、介入を示唆する報道が相次いだ。当時、筆者も他社の動向を横目に、数人のディーラー、当局者を取材し「恐らく入った」との感触を得た。もちろん速報を出し、本記も配信した。

 だが、当日の夜。ある日銀幹部から「今日は一切動いていないのに、メディアが盛り上げてくれた」と嘲笑されたことを鮮明に記憶している。筆者を含めた当時の大手メディアが、いいように使われたのだ。

 これ以降、筆者は日銀が介入時に注文を出す内外の銀行を割り出し、情報源の開拓に没頭した。当時からディーラーの電話はすべて録音されていたので、ネタ元との間で符丁を決め、介入の有無、規模などを徹底的に精査した。もちろん、当局サイドにも複数のネタ元を植え付けたのは言うまでもない。ダブル、トリプルのチェックを経てから「介入」を報じた。

 当然、速報で他のメディアに遅れを取り、上司から激しく叱責される局面もあった。だが、後に口コミが市場関係者の間に広がり、読者の信頼を勝ち取ったことは今でも誇りに思っている。当時の取材チームは、ネタ元を割り出そうとするディーラーたちから逆取材を受けるようになった。

実績発表の重み

 筆者が長々と書いてきたのは、自身の手柄話を披露したいからではない。

 当時、日銀が日々公表する資金需給表を除けば、政府は介入の有無や規模の詳細を発表していなかった。換言すれば、介入に見せかけるドル買い注文をすべて「介入」と報じれば、特オチという事態は回避できたのだ。

 だが我が取材チームをはじめ、他社のいくつかのチームは徹底的に取材して真偽を確かめたのだ。先に記した日銀幹部の嘲笑が屈辱だったからにほかならない。

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