第42鉄 海底駅、連絡線、昭和の記憶――津軽海峡の今昔を訪ねる杉山淳一の+R Style(4/6 ページ)

» 2010年10月28日 14時48分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

日本最北端のケーブルカーに乗ろう

 白鳥3号に乗り陸奥湾を眺め、いくつかトンネルをくぐった後で青函トンネルに突入する。漆黒の闇の中、列車は速度を落として停車する。窓からはグリーンの非常灯と蛍光灯しか見えない。銀河鉄道の列車が寂れた宇宙ステーションに停まったようだ。ここが竜飛海底駅である。開く扉は車掌室のそばの2号車だけ。ホームは1人分の肩幅程度と狭い。乗降扉の位置に通路が口を開けている。通路を下っていくと非常通路に出た。この通路は「作業坑」といって、列車が走る本坑を建設するための作業用だった。

次の目的地へは特急「白鳥3号」で。約50分の乗車だ
竜飛海底駅に到着。非常用のためホームは狭い
竜飛海底駅ホームから線路を見る。すでに新幹線用のレールが敷かれ、在来線と合わせて3本になっていた

 降車客が揃ったところでブリーフィングが行われる。青函トンネルの由来や作業坑の説明、見学の注意点などを聞く。ここには大きな荷物棚があって、旅人たちの荷物をすべて預かってくれた。着替えなど宿泊先で使う荷物は邪魔だから、この配慮は有り難い。カメラとICレコーダーと財布とタオルだけ持って身軽になった。トンネル内は弱い風が吹いている。これは地上から換気のための空気が絶えず流入しているためで、気温は20度に保たれているという。ちなみに湿度は80%以上とのこと。じっとしていれば涼しいけれど、動いて汗をかくとなかなか引かない。

 竜飛海底駅を宇宙ステーションのようだと書いたが、海面下240メートルのトンネルから地上に出るときも似たような雰囲気だ。なぜなら、重い隔壁で隔てられたエリアを通り抜けるから。見学者全員が隔壁エリアに入ると扉が閉まり、次の扉が開く。その先に地上へ出るためのケーブルカーがある。この隔壁はトンネル内で火災が発生したときに解放される。すると、ものすごい勢いで地上の風が送り込まれ、煙をトンネルの外に排出するそうだ。

作業坑の一部は展示室になっている
トンネル掘削の様子や使用した機材なども展示されている

 「青函トンネル竜飛斜坑線」は、営業路線としては日本最北端のケーブルカーである。青函トンネル作業員のためのケーブルカーを見学者に開放して運行しており、地上に出ると青函トンネル記念館がある。青函トンネル記念館の営業期間は4月下旬から11月上旬で、それ以外の時期は作業員しか使用できない。このケーブルカーは観光地にあるようなケーブルカーとは違い、1両だけが上下する。途中ですれ違ったりしない。約8分後に青函トンネル記念館駅に到着すると、ゴォォォォ……という音とともに線路のゲートが閉じられてしまう。ロボットアニメの秘密基地に憧れたメカ好きには楽しいギミックだ。

ケーブルカー「竜飛斜坑線」は、作業用らしい無骨なデザイン

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