TPPに参加するならば、2つの“地雷”に注意せよ藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年11月01日 09時21分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 横浜で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議を前に、菅首相がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加のアドバルーンを上げている。シンガポールやニュージーランドとの首脳会談で「参加を検討している」と表明したのだ。

 TPPとは2006年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国の貿易協定から始まった。現在はさらに米国、ベトナム、マレーシア、オーストラリア、ペルーを加えて9カ国で多国間の自由貿易、経済連携の協定締結に向けて話し合いが進んでいる(ちなみにこのTPPのもともとの英語はTrans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement、まだ訳語が定着していないが、ここでは外務省の訳に従った)。

多国間と2国間との大きな違い

 TPPの特徴は多国間の経済連携協定であること。FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)は2国間の協定だ。日本は先頃、インドとのEPA締結で合意した。これで12カ国・地域と自由貿易協定を結ぶことになるが、韓国や中国もこうした2国間協定を積極的に進めており、日本は「出遅れ」を指摘されている。

 多国間と2国間との大きな違いは、多国間の場合、それぞれの国の事情に伴う「例外」が認められにくくなるということだ。153カ国もの国が参加しているWTO(国際貿易機関)のドーハ・ラウンドは、簡略化して言えば先進国と発展途上国との対立をなかなか解くことができないでいる。しかし2国間であれば、関税撤廃の例外品目を交渉することも可能だ。実際、日本が各国とFTAやEPAを結ぶ場合はそうしてきた。しかしTPPの場合は、原則として例外品目を設けないとしている。

 こうなると「参加を検討」と首相が言っても、そう簡単に事は進まない。すでに与党内からも慎重論や反対論が相次いでいる。民主党の山田正彦前農水相が会長となって「TPPを慎重に考える会」が結成され、鳩山由紀夫前首相がその顧問に就任している。農水省は、もしTPPに参加して農産物が自由化された場合、現在の食糧自給率40%が14%に低下するとの「衝撃的」な試算を発表した。また北海道庁も、年間で2兆円を超える打撃を受けるとの試算を発表している。

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