鈴木敏夫プロデューサーが語る、スタジオジブリ作品の創り方(前編)(3/5 ページ)

» 2010年11月25日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

ヘアスタイルが性格を決める

西村 企画を立てて、監督を決めて、次は脚本ですか。

鈴木 まずはマロたち若いスタッフを3人くらい選んで、「お前らでちょっと考えてみろよ」と言ってみたのですが、何しろ自分たちでやったことがない連中なので、なかなかうまくいかないんですね。それで、僕は宮さんにシナリオを書いてくれるように言うことになりました。

西村 キャラクターはどのように決めるんですか?

鈴木 みなさんご存じのように、ヘアスタイルや洋服を除くと、ジブリ作品のキャラクターは似たような顔をしているんですね(笑)。そうなるとヘアスタイルって大事なんですよね。特に女性はそうです。だから、アリエッティのヘアスタイルをどうやって作るかというのは大きな問題でしたね。ヘアスタイルが性格を決めたりしますからね。

『魔女の宅急便』

 例えば、『魔女の宅急便』を作っていた時には、「どうやってキキ(主人公)を作ろう」と宮さんが悩んでいて、2人で吉祥寺の街を延々と散歩したことがあるんです。2人で喋りながら歩いていたのですが、なかなか思いつかないでいる時に突然、彼が「リボンだ。リボンを大きくすればいい」と言い出したんです。そこでパッと喫茶店に入って、紙に顔を描いて、そしてリボンをでっかく描いたんです。「これだ!」と言って。

 それで、「何でリボンが大きかったか?」ということですよね。見た目は単に大きいだけだけど、翻訳すると、リボンがキキを守っている、つまりまだ自立はしていない、自立したらこんなに大きなリボンはしなくて済む、なんて考えるんですよ。キキの持っている弱さの象徴ですよね。

 また、キキのそばに(言葉を喋る黒ネコの)ジジがいますよね。リボンのことと同時に、キキが心の中で思うことをキキとジジで話せばいい、とも考えたんですね。(キキが成長したことによって)ジジは最後、喋れなくなりますよね。

 そういうことを宮さんは僕の目の前でポンポン喋っていって、その時は珍しく「じゃあ、テーマは?」と言い出したので、僕は「思春期ですよね」なんて言ったりして、固まっていくわけです。

西村 ジジの喋っている声が聞こえるのは、子どもだから聞こえるという感じですか。そうやって組み立てていくんですね。

『天空の城ラピュタ』

鈴木 だから、リボン1つが結構大事だったりする。僕たちが一番悩んだものの1つに『天空の城ラピュタ』のパズー(主人公)があります。宮さんが「何かを手に持たせたい」と言ったんです。その前にやった『未来少年コナン』で、コナンは槍を持っていたのですが、それはもうできない。何かないかなと悩んだ結果、彼が「トランペットだ」と言い出して、一枚絵を描くんです。

 それでトランペットを吹く少年でやることになったのですが、映画の冒頭でパズーがトランペットを吹くというのが印象的なシーンになっていると思うんです。ただ、その後描いていく時に横で見ていると面白かったんですよ。(宮崎氏が)僕の顔を見て「鈴木さん」と言って、「どうしたんですか?」と聞いたら、「トランペット大変だ」と言うんですよ。槍は簡単に描けるのですが、トランペットを書くのは大変なんですよ(笑)。

 始めはトランペットを最初から最後まで持っている予定だったのですが、「もうやめよう。何も(特徴が)ないけどしょうがないな」とあきらめたんです。だから、パズーはちょっと(キャラクターが)弱いかなと。主人公を象徴する持ち物やヘアスタイル、帽子などは実はとても大事なんです。それがその人を表すから。

西村 じゃあキャラクターを作る時は、まずはヘアスタイルや持ち物から作り上げて、イメージボードに描き出していくんですね。

鈴木 イメージボードは、「映画の中にこんなシーンが出てきたらどうかな」とストーリーとは関係なく考えるんです。いろいろ描いてみて、使えるものと使えないものがあるのですが、ほとんどは意味がないですね。

西村 イメージボードから何かの発想が生まれてくることはないんですか?

鈴木 生まれないです、そんな簡単なものではないです。イメージボードは絵として優れているというより、その中に情報が入っていないといけないんです。要するに映画のストーリーに関係してくる何らかの小物が入っていないといけないのですが、それを描ける人はほとんどいないので。そういうことで言うと、宮崎駿はそれを描けますけど、ほかの人が描くものには意味がないんですね。

 宮さんが参加した作品で、宮さんがいつもイメージボードを描いているので、それを真似して描く人もいるのですが、見ても何の意味もないですよね。「そんなことをやっている暇があったら、ほかのことをやれ」と言いますね。

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