日本企業がグローバル超競争で勝ち抜くために必要なこと――A.T.カーニー梅澤高明日本代表(7/9 ページ)

» 2010年12月14日 08時00分 公開
[GLOBIS.JP]

コア事業の成長を徹底追求するグローバル競争の覇者、事業領域を広げる日本企業

梅澤 ここから先は、日本企業が直面している課題、あるいはグローバル化を加速する上で何をしていくべきかということについて、ヒントというレベルに留まりますがいくつかお話をさせてください。

 まず、AB InBevを含め、Samsung、Vodafone、Google……、そういったグローバル超競争の覇者は、「市場はグローバルだ」と考え、市場領域を広げているということです。海外である意味愚直なまでに市場をとっていく。しかしその一方で、事業領域はむやみに広げていきません。滲み出しはもちろんあるけれども、どちらかと言えばボリュームという縦軸を重視する戦い方をしています。そのため、コア事業に必要な基盤や組織力を徹底的に強化していく。そんな戦い方をしている企業が世界で強い。

 これに対して日本企業は、もちろん外には出ていきますが、そこで少しばかり“やけど”をするとすぐに手を引っ込めてしまう。さらに一番の成長軸は事業領域という横軸でした。国内市場でどれだけ新しい製品カテゴリーをとることができるか。例えば、メーカーなら製品領域からサービス、さらには金融にまで事業領域を広げていき、事業モデルを高度化していく。

 これは「何もしていない」という意味ではありません。知恵は、もしかしたらグローバル競合以上に使っているのかもしれない。けれどもその知恵の使いかたが国内での事業高度化や複雑化、あるいは事業領域の拡大という横軸に向いてしまっていた。これが少なくともリーマンショックまで、多くの業界における日本企業の戦い方だったように思います。そして国内大手の地位に、厳しく言えば「安住」し、中途半端な海外進出と撤退を繰り返している。もちろん自動車業界や建機といった例外はありますが、総合電機と言えどもこのパターンにはまっていた会社が多かったんですね。ましてやそれ以外の内需型産業は言うべくもありません。

 では、縦軸で強烈にアクセルを踏んでいくという意味でのグローバル化がなぜ進まないのか。私はこんな問いを2005年ぐらいから日本の大企業に投げ始めていましたが、そのころからよく以下のような話をあちこちで聞かされました。

  • 大きな国内市場
  • 独自のニーズを持つ日本の顧客
  • 日本企業特有の風土、雇用慣行
  • 日本語の壁、国際化人材の欠如
  • 外国人のマネジメントの難しさ

 もちろんこれらがすべて嘘というわけではありません。ただ、私としては「言いわけ」と思います。日本企業が向き合うべき真の課題とは何でしょうか。

短期志向に陥った日本企業

梅澤 まず戦略について。そもそも日本企業はいつの間にこれほど短期志向になってしまったのでしょうか。世界を見ていないだけでなく、「気が付いたらずいぶんと短期志向になっていませんでしたか?」というのが、1つ目の問いかけです。一昔前は米国から「日本の経営は長期志向だ」と称賛されていた。

 「10〜20年先を考えた投資や人材育成をしている」と。ところが失われた10年〜15年を続けている間、日本企業も背に腹が代えられなくなってきてしまった。とにかくこの3年でどう会社を立て直すかを追求した結果、2000年代前半のV字回復につながった。でも実はそのV字回復の成功体験が、成功の呪縛につながっている。「これからの3年間でできることをコミットメントとして掲げ、それを徹底的にやるんだ」という経営から脱皮出来なくなってしまった会社が多かったように思えます。

 そんな状態で海外展開を行うとどうなるか。10年先のインド市場を10年かけて開発しようなんていう発想にはならないわけです。今日本で持っている製品群を少々ファインチューンして中国に持って行けば、「中国の消費者は日本に近いから売れるよね」と。それで「3年以内にもしかしたら黒字転換できる」と考え、日本と近い市場には出て行くけれど、日本と離れている市場にはいくら拡大すると分かっていても行かない。こんな戦い方になっていたように思います。

 グローバル戦略というからにはグローバル市場全体を俯瞰(ふかん)して、「ここが伸びる」、あるいは「ここで勝てる」という見立てを作る必要があります。そこで勝てるからこそ、一気に資源を配分することもできるわけです。もちろん、個別のマーケットごとに製品開発をしていたらコストがかさむので、可能な限りグローバルで共通製品を売りたい。だからどのように国外市場をクラスタリングして、グローバル共通商品“A群”や新興国ボリュームゾーン商品“B群”を作り、それを世界全体でどう効率的に展開していくか考える。これがグローバル戦略です。

 そういう意味で、グローバル化にはトップダウンによる長期ビジョン、または戦略の策定と提示が欠かせません。

 自社のポジショニングを把握して、世界市場のどこをとるかという戦略的フレームワークを作成すること。具体的には、もう見慣れたフレームワークですが、1つが地域軸で、もう1つは製品セグメント軸ですね。この中で「どのセルをどのように取っていきますか?」ということです。企業としてグローバル展開していくにあたり、どこで圧倒的に勝つかを明示出来ているか。みなさんもぜひご自分が勤める会社で確認してみてください。

 ここで大事なのは、「そこにも、あそこにも」と全部を塗ることではなく、どこで圧倒的に勝つかを明示的に追求することです。どこでも勝てず、まんべんなく広がっている会社というのが一番危険です。

 このほか、製品軸で戦おうということであればグローバルでプレミアム戦略をとるという戦い方や、あるレイヤーを1人で総取りするというレイヤーマスターの戦略も考えられます。また、地域軸で戦おうということであれば、広域地域市場のドミナント戦略や新興国のボリュームゾーンを中心に攻めるといった戦略も考えられます。

 しつこいようですが、もう一度お話しします。例えば「我が社はアジアフォーカスだ」と、海外展開を掲げている企業は恐らく大企業の5〜6割以上にのぼると思います。しかしアジアフォーカスと言っている会社のなかで、本当にアジアナンバー1になろうとしている会社はどれだけありますか? 本当にアジアナンバー1になる勢いでアクセルを踏んでいますか? そういう問いについて真剣に考えていただきたいと思っています。

 となると、例えば「中国市場が年率10%以上のペースで拡大しているから、我々も中国での売上高を年率10%で伸ばしています」では、戦略とは言えません。だってそれなら中国でもナンバー1になれないわけでしょ? ましてやアジアナンバー1になれるはずがない。そのままではいつまでたってもグローバル競合の背中が近くはなりません。遠くなることはあっても。

今や国対国の産業政策競争の時代に

梅澤 最後になりますが、グローバル超競争では技術革新とともに、国対国の産業政策競争も進んでいます。日本は韓国との比較で見ていただいた通り、国内産業がばらばらであるためになかなか世界でうまく戦えていません。

 その状況を打破する1つのきっかけとして有り得る話が、「生態系輸出」というストーリーです。例えば、原子力や火力発電設備に高圧の送電設備、さらには発電オペレーションをセットで売っていく戦略です。製造業とサービス業をセットで売っていくということであり、東芝や日立といった重電メーカーと東京電力やJ-POWERのような電力事業者がセットで海外の大型案件をとりに行く。そして発電所を納入する設備需要だけでなく、その先20〜30年と続く発電オペレーションやメンテナンスの需要をとりにいくという戦い方です。

 同じような戦略は鉄道や通信のインフラでも有り得ます。南米ではなんと8カ国が日本の地デジ規格を採用しましたが、その規格で映る薄型テレビを南米で誰が売っているかと言えば、SamsungとLGです。もったいない話ですよね。

 さらに言えばEVのエコシティ。最近では「スマートシティ」とか「スマートコミュニティ」とか、色々な呼び方をされていますが、不動産開発の領域から街のコンセプトを考え、分散型発電を行うエコタウンを作るという事業です。ここにマイクログリッドやスマートメーター、あるいは充電ポストといった関連サービスを組み合わせたら、相当大きなプロジェクトになりますよ。しかも日本はそれら分野ですべて技術要素を持っています。それを組み合わせて大きく売りましょうというのが生態系輸出ですね。冒頭でお話しした経産省のインフラ輸出戦略でも同じような見方がなされています。

 そんな形で、本日は多岐に渡るお話をさせていただきました。私のプレゼンテーションはいったん、これで終わりたいと思います。

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