日本企業がグローバル超競争で勝ち抜くために必要なこと――A.T.カーニー梅澤高明日本代表(9/9 ページ)

» 2010年12月14日 08時00分 公開
[GLOBIS.JP]
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日本は「人材開国」すべし

会場 先々週ぐらいに拝聴した三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長の講演で、「今の日本はゆでガエル状態ではあるが、蛇が現れないと立ち上がらない」というお話がありました。国内企業にも外国人取締役がぽつぽつ出てきたという状況をうかがうにつけ、器としての会社は残っても、経営層はみんな外国人という開国は近いのではないかという気もしています。

梅澤 例えばガチガチのドメスティック企業が外国人役員によるショック療法を受けるとか、そういうことを日本人も早く経験したほうが良いですよね。それで日本人の中間層たちがみんなやられてしまい、未来永劫、外国人が経営層になるほど、日本人はやわじゃない。私も昔は日産自動車にいたので分かるのですが、カルロス・ゴーン社長が来てからは、さまざまな人材の競争がありましたが、そこで生き延びた日本人は結構したたかになっていますよ。

吉田 例えば中国の日本企業に対する投資や買収など、資本のグローバル化はかなりのスピードで迫ってきているように感じます。その中でどう個人がしたたかに生き延びていくか。

梅澤 そうですね。日本人が非日本企業に入っていっても十分戦えるぐらいになれば、日本企業に外国人が入ってきても良いではないですかということなんですよ。ちなみに日本企業を主語にして考えれば、どんどん入ってくる外国人と一緒にグローバル市場を開拓するような仕事をしていかないと、日本企業の勝ち目は薄いと思います。

吉田 AB InBevも経営陣がブラジル人になったことで社内のベルギー人が不幸になったかというと、そういうわけでもなかったのですよね。

梅澤 うーん……、そこは微妙でしょうね。やはり経営陣が乗っ取られたように見えるし、実は取締役会もブラジル勢に席巻されていますから。しかもベルギー本国の工場は一部閉鎖されています。そういう意味ではベルギー人も「我々のInterbrewが世界で25%のシェアを取っている」という誇りの反面、雇用などについて複雑な気持ちがあると思います。でも、こういう形になっていなければSABMillerにやられて、Interbrew自体がもうだめになっていたかもしれないわけです。結局、「どちらが良いですか?」という話だと思います。

吉田 そういう意味では、そこでいかに自分なりの生き方や幸せといったものを定義していけるのかという命題も、グローバル化の時代になれば1人1人が突きつけられるという気がしますね。

梅澤 そうですね。もし今の日本でまだ開国すべきか否かが論点になっているとすれば……、確かに移民まで含めれば論点になっていますが、論点設定からしてもう出遅れている。「どのようにして開国して果実をたくさん取るのか」という議論をするなら分かります。

会場 業界ごとにいまだ多くのプレイヤーがしのぎを削り合っている今の日本が、いわゆる日本連合を組んでグローバル競合に勝てるのでしょうか。今日は「国内を制した1〜2社がグローバル企業になっていく」というお話もありましたので、その辺のバランスについておうかがいしたいと思いました。

梅澤 もし時間的に余裕があれば、国内再編で勝ち残った強者同士で連合をつくり、世界での勝率を上げるべきだと思います。ただ、ここでお話ししているインフラ輸出は、これからの10年が一番のチャンスです。国内再編は普通にやっていれば5年かかりますが、その5年を無駄にはできないと思うんですね。まずはチームジャパンをなるべく強い企業同士でつくり、世間の雰囲気的にも、業界の常識的にも、「この業界で生き残って軸になる会社はここだよね」という流れを先につくっていくのは有りかなと思っています。

 恐らく経産省もそのように考えていると思います。だから総論では産業再編と言いつつ、具体的に「どことどこがくっつきなさい」という話は現状それほど出ていない。いずれにせよ、チームジャパンをどうするかという段階になればどこか1社が選ばれることになる。その時、「この領域は東電を、この領域はJ-POWERを」という実績が重なれば、必然的にどこが軸になるのか明確になる。そんな動きが今後数年のうちに色々な領域で起こると思います。

吉田 例えばコンソーシアムのような形で業界標準を作っていく流れと、会社自体が2社ぐらいに減っていく状態では、主に何が違ってくるのでしょうか。

梅澤 1つは意思決定が早いということ。もう1つは同業が集まってコンソーシアムを組んでもコスト競争力はそれほど上がらないですよね。会社が1社になってオペレーションを統合していけば、当然コスト削減の効果も大きくなりますし、資本力も上がりますから。

会場 企業がグローバル展開をしていこうという時、「海外進出をしたら自分の立場が追いやられるのではないか」とか、色々な危惧する役員も出てくると思います。場合によっては「あと数年生き延びることができたら良い」といった本音も出ます。また、グローバル展開に伴ってオフショアなどを行えば海外に仕事が流れ、国内の雇用不安に対して組合などから反発があがります。さまざまな反発が考えられるように思いますが、どのように合意形成を図っていくべきか、お考えをお聞かせいただけないでしょうか。

梅澤 そういった反発は、どれほど先進的に見える会社でも必ず出てくる類のものだと思います。その場合には選択の経緯、あるいは会社として起こり得るシナリオを明確に見せてあげることが大切なのかなと思いますね。客観的なシナリオから、打って出る戦略が持つリスクも見せる一方で、「何もしなければどうなるか」ということもきちんと見せる。「あなたが役員をやっているあと2年は潰れないでしょう。でも私が役員になるころには会社自体なくなっているかもしれないんです」という事実や現状をきちんと証明出来れば、モラトリアムな役員さんでもさすがに、「何もしなくても良い」と胸を張って言うことはなくなります。

会場 グローバル展開をする以前に、労働力の流動化をサポートする体制が日本企業には整っていないと思います。関連する法整備もまったくできておらず大いに問題だと思うのですが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

梅澤 労働力の流動化を国としてどのようにサポートするかというご質問ですね。

吉田 雇用の問題というのは昔からあって、今はどちらかというと雇用の流動化に対する逆風があって思いきった施策がとれない面もあると思います。一方で従業員を大事にするという日本企業の良さも確かにある。そこでどのような処方せんがあるかということですね。

梅澤 企業を主語にして「生き残らなければいけない」という命題を立てた瞬間、やはりある程度は国内の雇用流動化を受け入れざるを得ないようになると思います。特に製造業や、ある程度外需に依存している会社に関して言えばですが。先ほどのお話にもつながると思いますが、企業単位で雇用を保証する時代ではもうないと思っています。グローバル競争の時代はそうじゃない。だとすれば、社会としてどのように再雇用を促進していくのかを考えて、職業教育やセーフティーネットを用意していくかが大事になるんだと思います。それを企業ばかりに押し付けるのは、ある意味社会全体の怠慢だと思いますので。

会場 中小企業はグローバル展開を目指すにもなかなか難しい側面が多いのではないかと思っています。例えば、グロービスへ勉強しに来ている人たちの中には、自分で起業して社会を変えていきたいという人もかなり多いかと思いますが、グローバルに寡占化が進んでいく中で、中小企業などの小さな単位でどういったことを念頭に進んでいけば良いのでしょうか。

梅澤 比較的小さな規模でスタートアップした企業が、そこそこの成長率で大きくなり、自分も社員もハッピーに……、ということが日本国内で実現できるのなら、それはそれでもちろん良いと思います。ただ、「小さな企業だからドメスティックでも仕方がない」という命題は、実は正しくないんですよね。例えば、ドイツは中小企業がグローバル化していることで有名ですが、売上高で言えば100億ぐらいでも世界シェアは7割といった企業が結構あるんです。

 別の話を申し上げましょう。5年前にシカゴでタクシーを拾った時、その運転手に、「お前は何の仕事をしているんだ」と聞かれたので経営コンサルタントだと答えたら、「俺のビジネスプランをコンサルテーションしてくれ」と(会場笑)。空港に着くまでの40分の間、ずっと彼に付き合わされました。

 彼は5年前にインドから米国に来て、タクシー運転手をやりながら親戚か何かのつてを使い、企業向けに通信機器のコンポーネントを売り込んでいたそうです。「ちなみに僕の製造拠点はインドのどこどこで、実は僕の別の親戚が中国に売り込もうとしている」と言うんですよ。タクシーの運転手で資本金ほぼゼロ、既存顧客ゼロ(会場笑)。リレーションがいくつかあるだけのインド人男性が、こういう発想でやっているわけです。だからとにかく日本人も、規模や条件のしがらみに閉じこもっていてはいけないと思います。

吉田 そういう意味では我々自身の発想をあまり閉じ込めないようにするのが、まず大事なことなのかなとも思いますね。

梅澤 本当に日本が最も市場機会の大きいマーケットだから、日本を本拠地にしたビジネスを考える……、これならいいんです。でも、もしかしたら中国のほうが5倍あるかもしれないわけですから、一度は考えてみましょうと。「世界でやったほうが良くないか?」と。

吉田 大変よく分かりました。ありがとうございます。ではそろそろ時間も迫ってまいりましたので、この辺で終了にしたいと思います。本日は大変刺激的なお話をいただきまして本当にありがとうございました。

梅澤高明(うめざわ・たかあき)

A.T. カーニー日本代表/グロービス経営大学院 客員教授

東京大学法学部卒業、マサチューセッツ工科大学(MIT)経営学修士課程修了。日産自動車を経て、A.T. カーニーのニューヨーク・オフィスに入社。米国企業の経営改革に4年間携わった後、同社東京オフィスに異動。現在は、国内大手企業(消費財、ハイテク、メディア、エネルギー、総合商社など)を中心に、全社戦略・事業ポートフォリオ、グローバル戦略、マーケティング、組織改革に関するコンサルティングを実施。主な著作に「ストレッチ・カンパニー」(翻訳、東洋経済新報社 2005年刊)、「グループ経営戦略と管理」(共著、企業研究会2008年刊)、NIKKEI NET Biz Plus連載「グローバル超競争時代の成長戦略」(http://www.atkearney.co.jp/about/popup /biz_plus01.html) など。


吉田素文(よしだ・もとふみ)

グロービス経営大学院 経営研究科副研究科長

立教大学大学院文学研究科教育学専攻修士課程修了。大手私鉄会社を経て現職。グロービスでは研修・クラスの品質管理、社内外の講師の管理・育成(Faculty Development)を統括する。ケースメソッド等インタラクティブなティーチング方法論を専門とし、実践的なティーチングメソッドの研究・実践により多数の質の高い講師・クラスを生み出している。また論理思考・問題解決・コミュニケーション・経営戦略・リーダーシップ等の領域を中心に、プログラム・コンテンツ開発を行うとともに、グロービス経営大学院、マネジメントコースおよび企業研修での講師を多数務める。共著書に『MBAクリティカル・シンキング』(ダイヤモンド社)がある。


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