山P妹クビ問題から考える、「言った、言わない論争」の意味(1/2 ページ)

» 2011年01月12日 08時00分 公開
[増沢隆太,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:増沢隆太(ますざわ・りゅうた)

RMロンドンパートナーズ(株式会社RML慶文堂)代表取締役。東京工業大学特任教授、コミュニケーション戦略家。人事コンサルタント兼大学キャリア教官兼心理カウンセラーで、東工大大学院では「コミュニケーション演習」の授業を行っているほか、企業では人材にも「戦略性」を重視する功利主義的アクティビティを提唱している。


 男性アイドルグループ・NEWSの山下智久(愛称:山P)さんの妹で、元グラビアアイドルでもある山下莉奈さんが、「勤め先の小林興起事務所を年明け早々にクビになった」とブログに書いた件がニュースになりました。それに対し事務所側は「一方的解雇ではなく、業務指示を拒否したことが原因だ」と反論、両者の言い分には溝が生まれています。

 「個人側」と「会社(雇用)側」が正反対の理由を述べる構造は、正に組織コミュニケーションにおけるギャップの典型です。最も大切なことは「誰が(何が)正しいか?」という善悪追跡には、まったく意味がなく、組織と個人はそのように一致が難しいものであるという構造を理解することだと言えます。

 この典型例のコミュニケーションギャップモデルを分析してみましょう。

 山下さんのブログには、(2010年10月から)小林事務所で働き、取材を受けたくないし、受けられないという対マスコミ取材方針のあり方などで話し合いをし、解決したと思っており、新年からまた心機一転というつもりだったのに、朝行ったらいきなり12月付けで解雇になったと書いています。小林事務所でマスコミ対応がうまくできないということが理由で、急過ぎる動きへの不信と、新年早々無職になったことへの不満が綴られています。

 これに対して小林興起事務所は、(山下さんは)駅頭や地元まわりなど現場での勉強を忌避し、内勤だけ希望するなど「政治家の仕事を理解していない」と判断した。さらに本人は2010年12月中旬から欠勤しており、5日に話し合ったが溝は埋まらず解雇となり、本人も「お世話になりました」と笑顔であいさつしていったと反論しました。

 我々、第三者がここから読み解ける事実は、2010年10月に入社(入所)した山下さんが、事務所と業務内容をめぐってもめ、その結果12月に話し合いを持ち、結局決裂し1月5日に辞める(辞めさせられる)ことになった、ということです。

 それ以外は両者の言い分が真逆なので、その真偽を確かめることは出来ません。実はこの「真偽は分からない」ことこそ、組織コミュニケーションの本質なのです。通常の勤務や就職、退職なども含め、組織内で発生するさまざまな事象には真偽・正邪はありません。それぞれ受け手が「どう感じるか」です。豊臣秀吉は日本では一般的にはヒーローととらえられていることが多いでしょうが、征明、朝鮮出兵の被害を受けた側からすれば歴史に残る大悪人と受け止められます。

 つまり「私は頑張った」「誠心誠意努力した」「マスコミ対応について話し合って解決していた」「内勤だけを希望した」といった事実は突き止めようがありません。会社は警察でも裁判所でもありません。コミュニケーションギャップはここに生まれます。突き止めようのない事実を白黒付けようとするから衝突が起こり、もめるわけです。

       1|2 次のページへ

Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.