オンナの胆力が生んだ大ヒット商品、ルルドマッサージクッションそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年02月23日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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常識にとらわれるオトコと顧客の「欲しい」に耳を傾けるオンナ

 記事を要約すると、開発や企画を推し進めたのは女性チーム。ベテラン営業マンの「売れるわけがない」という強い反対に遭い、家電量販店からは「ひと目でマッサージ器と分かるものを」と一蹴される。社内の男性社員からは「パッと見た時、用途が不明」「電源の位置が分からない」などの声も寄せられた。

 それでも、「買い物の権利の決定権の7割は女性にある」と、女性視点からの商品開発にこだわった。最終的には同社の会長がゴーサインを出し、本格的な商品化が決まったという。

 まず思いを致すのが、男と女の深い溝。かくも、男と女の間には黒くて深い川があるがごとく、分かり合えないものなのか。女性開発担当者は、エンヤコラと川を渡る船を出して、Row and Rowと漕いだりはしなかった。

※ちなみに黒くて深い川の話がピンとこないお若い方は、「火垂るの墓」で直木賞受賞、童謡「おもちゃのチャチャチャ」作詞で知られる野坂昭如をググってほしい。「黒の舟歌」という曲だ!

 「カラダが楽になりたい」というニーズには男女差はない。また、フィリップ・コトラーの「製品特性3層モデル」で分解して考えた「価値構造」で考えても、受入れがたい価値の差異はないはずだ。しかし、決定的に違っているのは、オトコは「パッと見て効果・効能が分かりやすい」という「機能美」を求め、オンナは「マッサージ機にすがっているんじゃないわよ」的な「らしくなさ」を求めていたのだ。

 そしてまた、インプリメンテーション(実行)のフェーズがいかに大切か、思い知らされる事例でもある。マーケティングや商品開発の職場は“花形”と思われ、学生から人気の高い職種の1つではあるが、実はひたすら社内調整に追われることも多い。

 いくら頭の中で素晴らしい戦略が描けても、素晴らしい商品を思いついても、それを社内政治の中で実行まで移すことがいかに難しいか。R&Dを説得し、営業に納得してもらい、流通を口説き落とす……。その過程の中で、エッジが削られ、小さくまとまった商品になってしまうことも少なくない。もちろんエビデンスも用意はするが、そんなもの解釈次第でいかようにでも反論されてしまう。

 リーマンショック以降、MBA教育が見直される中で、「実行する能力」が問われ直されている。頭の中で描いたものを実行のフェーズまで移す、ある種の政治力がないと、結局変革やイノベーションは起こせないからだ。

 今回のデザイン開発コンセプトが「かわいいけれど甘すぎない」マッサージ機であったというが、社内の男性陣の意見を振り切った結果、商品は大ヒットした。発売から1年以上が経過した今でも売れ行きに衰えがないというから、担当者の慧眼、実行力には脱帽だ。

 「仕事の合い間に独自に開発を始めた」という、あらゆる反発にあってもめげない、信念を貫き通すオンナの胆力や執着心。草食化した男子も学びたいものである。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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